第33回 植物油栄養懇話会

リン脂質は食品添加物のままでいいのか?

コリンはビタミンとは言えないのか?

~日の目を見ない化学物質を研究して思うこと~

仙台白百合女子大学 人間学部 健康栄養学科 教授 大久保 剛

大久保 剛

 本講演では、従来「食品添加物」として扱われてきたレシチン(リン脂質)およびコリン化合物を、栄養学的観点から再評価し、その生理機能と研究課題を整理した。脂質は一般に一括して論じられるが、脂肪酸組成や分子種の違いにより生体での挙動や機能は大きく異なる。水産由来リン脂質(PC-DHA、PC-EPAなど)は、免疫調整、抗炎症、代謝調節、神経機能維持など多面的な作用を有し、食品素材としての価値が高い一方で、消化・吸収機構には依然として未解明な点が多い。
基礎研究では、魚卵リン脂質(Roe-PL)を用いた腸管吸収実験では、DHAをトリグリセリド型・遊離型と比較した場合、リン脂質型DHAがリンパ中のリン脂質画分に多く取り込まれることが示され、分子形態による吸収特性の差異が明確となった1)。また、血液脳関門に発現するトランスポーターMfsd2aがLPC-DHAを特異的に脳内へ輸送することから、リン脂質型DHAが神経系の維持に重要であることが強く示唆される。
 臨床研究では、PC-DHAの3か月摂取により、睡眠ポリグラフにおいてREM睡眠間の増加傾向が認められ、OSA睡眠調査票でも熟眠感の改善が示された2)。さらに、マウス耳介炎症モデルではリン脂質型 DHA が最も強い浮腫抑制効果を示した3)。加えて、水溶性コリン化合物である α-GPC の摂取は成長ホルモン分泌を介して脂質動員を高め、軽度運動との併用により呼吸商の低下(脂質燃焼亢進)や腹部皮下脂肪の減少が確認された4)
 日本人のコリン摂取量では、大学生の食事調査からも日常的な摂取不足の可能性が示唆された5)。そもそも、欧米ではコリンが必須栄養素として食事摂取基準に収載されているが、日本では法律の壁もあり未収載である。

成熟・肥大に与える影響

 以上の知見から、リン脂質およびコリン化合物は、生体での合成が限定的でありながら多様な機能を発揮する重要な栄養素群である。これらの科学的理解が進むことで、脂質栄養学におけるパラダイムシフトがもたらされると考えられ、今後さらなる機能解明と制度化が強く求められる。

  • 1) Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2018 Dec:139:40-48.
  • 2) 睡眠と環境 2018, 8(1), 9-14.
  • 3) 日本油化学会誌 2000, 49(1), 75-79
  • 4) 特開2014-051459
  • 5) J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2022;68(Supplement):S34-S36.

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