  
 
  パーム油が、これほど広く利用されるのはどうしてでしょうか。 
  まず、何よりも価格が相対的に安いことが挙げられます。先に述べたように高い生産性によって、パーム油の価格は他の植物油よりかなり安くなっています。このため、食用だけではなく石鹸・洗剤類をはじめオレオケミカルと称される化学品産業界でも広く利用されます。最近では、バイオディーゼルへの利用も広がっています。ただ、次に述べる脂肪酸構成の特徴から、冷涼な時期に固形状になりやすいことが、燃料利用の拡大の阻害要因になっていますが、これを克服する技術開発が進められているようです。 
  もう一つの理由は、パーム油の性質が他の植物油とは大きく異なっており、様々な用途に利用できることが挙げられます。 
  パーム油の特徴は飽和脂肪酸を多く含む植物油であることにあります。このため、ほとんどの植物油が常温で液状であるのに対し、パーム油は液体と固体の中間に位置する特徴を有しています。(財)日本油脂検査協会が分析したサンプルの平均値を表1に示しました。パーム油の特徴がおわかりいただけるでしょう。脂肪酸のほぼ半分が飽和脂肪酸(パルミチン酸)で、不飽和脂肪酸もほとんどがオレイン酸という特徴を有しています。 
【 表1 主な植物油の脂肪酸含有率の比較 】 
 
(単位:%) 
|   | 
  | 
  | 
 
| パルミチン酸 | 
その他 | 
 オレイン酸 | 
リノール酸 | 
その他 | 
 
    | パーム油 | 
    44.2 | 
    5.6 | 
    39.8 | 
    9.6 | 
    1.0 | 
 
    | 大豆油 | 
    10.2 | 
    4.1 | 
    25.3 | 
    52.7 | 
    7.9 | 
 
    | 菜種油 | 
    4.0 | 
    1.7 | 
    62.0 | 
    20.0 | 
    12.3 | 
 
 
出典:農林水産省「我が国の油脂事情」(2008年12月) 注:(財)日本油脂検査協会が分析した食用精製油サンプルの平均値(平成18年度) 
 
  脂肪酸のほとんどが飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸であることは、パーム油が酸化や加熱に対する安定性が高いことを示しています。先に述べましたように、アメリカで水素を添加した植物油(主として大豆油)に代わり、パーム油の利用が進んでいるのは、この特徴によるものです。また、油で揚げる加工食品にパーム油を用いると、油の酸化による変質を抑制し、安定性が長く維持されるという利点があります。 
  脂肪酸を分別(例えば、融点の差を利用した分別)することによって、異なった性質の製品を作ることも広く利用されています。表1の脂肪酸構成から、不飽和脂肪酸の量を少なくすると固形状の油(パーム・ステアリン)に、逆に飽和脂肪酸を少なくすると液体状の油(パーム・オレイン)になり、それぞれに適した用途が生まれてきます。 
  注:ここで言うステアリンとオレインは、ステアリン酸とオレイン酸を指すものではなく、固体状のものをステアリン、液体状のものをオレインと       称する業界固有の用語として定着したものです。 
  例えば、固形のものは動物性油脂とは異なり比較的低い温度で溶けやすいという特徴があります。口に入れるとなめらかに溶けるため、マーガリン、ラクトアイス、チョコレートの添加油脂やホイップクリームの代替品などに用いられています。 
  液体状のものは、酸化や過熱への安定性が高いという特徴を生かし、比較的賞味期限の長い加工食品に用いられることが多く、即席ラーメンや揚げ菓子用に用いられています。また、他の植物油と混合してフライ用の油に用いられています。 
 |