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 現在、大豆をはじめ、植物油の原料となる油糧種子の国際需給が逼迫感を強めています。大豆の国際的な指標価格であるシカゴ商品取引所の先物価格は、3月18日に1ブッシェル(約27kg)当たり10米ドルのラインを突破した後、10ドル前後の高水準で推移しています。
 また、日本にとって大豆と並ぶ重要な油糧種子の菜種価格も1トン当たり420カナダ・ドル前後の高値が続き、これらと平行して、植物油やミール(油を抽出した粕。主として飼料の原料になります。)の価格も上昇を続けています。
 シカゴ市場の大豆価格が10ドルを突破することは過去にもしばしばみられました。最近では、1988年から1989年にかけて10ドルを超えたことがありますが、いずれも短期間で終焉しました。しかし、今回の高値は過去のものとは明らかに様相が異なっているというのが多くの専門家の見解です。
 世界の油糧種子市場に何が生じているのでしょうか。

1 大豆が主導する世界の植物油供給

 世界で最も多く生産されている植物油は大豆油で、パーム油がこれに次いでいます。この2つに比べると、その他の油の生産量は極めて少ないことがわかります。図1は「Oil World」誌から、世界の11大植物油の生産量の比率を示したものです。生産総量は約1億トンですが、大豆油とパーム油で過半を占めています。3番目に多いのは日本で最も多く消費されている菜種油ですが、パーム油のおよそ2分の1の量にすぎません。


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 このように、世界の植物油の市場は、大豆油とパーム油が主導権を握っています。しかし、この二つの油は性格が全く異なっています。
 大豆は、アメリカやブラジルに代表されるように、広大な大地で生産されています。大豆は、そのまま原料として国際流通するとともに、大豆油及び大豆ミールという加工品としても流通するという汎用性を有しています。
 これに対して、パーム油は果肉から搾油される油であるため、油でのみ流通するという特徴があります。パームの代表的産地はマレーシア及びインドネシアで、広大な大地ではありませんが、熱帯気候のためほぼ年間を通じて収穫が可能という特徴を生かして大豆と競合できる地位を得ています。パーム油が大豆油と肩を並べるようになったのは、1980年代後半からですが、近い将来には、パーム油が大豆油を追い抜くのではないかという見通しさえあります。

 しかし、国際市場での価格形成は、歴史的な経緯や汎用性から大豆が主導権を有しています。通常の状態であれば、パーム油の価格は大豆油の価格に平行するように動くという特徴があります。このことは、その他の油糧種子と植物油を見ても同様です。したがって、植物油の国際市場をみるときには、大豆と大豆油の動向を見ることがまず重要になるのです。


2 大豆が席巻する油糧種子市場

 大豆の優越性は、油糧種子でより鮮明になります。図2は、世界の油糧種子生産の現状を示しています。3億トン強の油糧種子生産量の約6割が大豆となっています。日本で最も多く生産される菜種油原料の菜種は約11%にすぎません。


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 油糧種子の貿易をみると、この関係はもっと極端なものになります。2001/2002年の世界の油糧種子貿易量6,500万トンのうち約82%にあたる5,300万トンが大豆となっています。2002/03年には、大豆の貿易量は6,000万トンを超え、この比率はさらに高くなっています。
 このような圧倒的位置づけから、油糧種子の国際価格は大豆が機軸となって形成されます。油糧種子に関する経済記事で“連れ高”という言葉をしばしば目にしますが、大豆価格に引きずられて他の油糧種子の価格が上昇する現象を称しています。
 つまり、世界の油糧種子市場では、大豆の需給がどのようになるかということが最も重要な問題になるといっても過言ではありません。


3 特定国に集中する大豆の生産と輸出

 大豆は、温帯から亜寒帯にかけた地域で広く栽培される作物ですが、特定国の生産が圧倒的に多いという特徴があります。世界の大豆生産量は2億トン弱と見込まれますが、その90%は、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、中国の4カ国で生産されています。
 また、輸出余力のある国はアメリカ、ブラジル、アルゼンチン及びパラグアイの4カ国で、これらの国で世界の輸出量の97%を占めています。つまり、世界の市場に対して供給力を有している国は4カ国にすぎないのです(図3参照)。


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【アメリカ】
 アメリカは、世界の大豆生産国として君臨してきました。1975年当時、アメリカは、世界の大豆生産量の64%、輸出量の78%を占めていました。シカゴ商品取引所で形成される価格が、世界の取引基準価格となっているのはこのような背景があるからです。その後も着実に生産は拡大し、2001/02年には7,800万トンと史上最高の生産を記録しました。しかし、世界の生産及び輸出に占めるシェアは逆に低下を続けています。生産のシェアは1990/91年に50%となり、2003/4年では35%程度と見込まれます。また、輸出におけるシェアも、1991年は66%、2003/4年では38%にまで低下すると見込まれています。 アメリカの大豆作付面積はほぼ限界に達し、他の作物と生産競合が生じる状態にあることから、今後の生産拡大には多くを期待できないと見込まれます。

【ブラジルとアルゼンチン】
 このようなアメリカのシェア低下をもたらしている最大の要因は、ブラジル及びアルゼンチンが生産・輸出を急速に拡大していることにあります。両国は、耕地の開拓によって1980年代後半から大豆の生産を増加させてきましたが、特に、今世紀になってから目を見張るような急速な拡大が続いています。
 「Oil World」誌は、2003/4年に世界の大豆生産量及び輸出量に占める両国合計のシェアを、大豆生産量が46%、輸出量が53%と推計しています。アメリカのシェアは、35%、38%と推計されていますので、両国はアメリカを凌駕することとなります。しかし、このような急速な拡大が熱帯雨林など自然環境の破壊をもたらしていることに対し、批判の声も生じています。

【中国】
 中国は1980年代までは大豆輸出国に数えられ、150万トン余りの大豆を輸出したこともあり、日本の味噌原料となる白目大豆の重要な供給国でした。しかし、生産の拡大が続くものの需要の増加に追いつかず、1995年から大豆の純輸入国(輸出を輸入が上回る)に転じました。このことが、後に述べますように世界の大豆需給を逼迫させる大きい要因となりました。中国はおよそ1,600万トンの大豆を生産していますが、その2分の1が製油原料となり、残り半分は豆腐などの食品に利用されていると予測されます。この数年、中国の拡大する植物油消費市場を目当てに、国際的な製油資本が中国海岸部に大型の製油工場を相次いで建設しました。

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