心身共に元気で長生きするための食事とは
では、現在のシルバー世代の食生活はどうなのでしょうか。やや気になるのは、理想的な食生活を築いてきたこの世代の食が、栄養知識の誤解によって必ずしも理想とはいえないものになりがちなのではないかということです。詳しく説明しましょう。
●誤解の多いシルバーの理想食
■図表5 小金井市70歳老人の血清総コレステロール値(mg/dl)の
四分位別10年間生存率(男女計)
資料:柴田博「中高年の疾病と栄養」(1996)

 冒頭でも触れたことですが、「歳をとったら油っこいものは控えめに」という意識には根強いものがありますが、これは正しいことではありません。総エネルギーに占める脂肪の割合を年齢ごとに比較したデータで見ると、若い世代はやや理想値を上回って問題ありと言わざるを得ませんが、60~70代は適正値内です(図表6)。他の研究成果も踏まえ、私はこの年代の脂肪摂取量はむしろもう少し多めでも良いと考えているくらいです。
 高齢の人が脂肪を気にするのは、おそらくコレステロール値を意識してのことと思われます。これについては、先に触れた小金井市の調査でコレステロール値によって4つのグループに分けて10年間の生存率を見たデータがあります(図表5)。これを見るとコレステロールの高い方から2番目のグループ、女性でいえば220~249の方たちが最も長生きしています。220という値はつい最近まで正常の上限値、すなわちそれを超えたら投薬の対象となるという値とされていました。私は調査結果を根拠に、この上限値は低すぎると長い間主張し、それが実ってようやく今年6月、日本動脈硬化学会が総コレステロール値の上限を220から240に引き上げました。この見直しで、いままで高コレステロール血症と診断されていた人たちの多くは正常範囲内に入ると言われており、健康の指標がひとつ大きく変わったといえるでしょう。

●「若いときのままの食事」が心身ともに元気に長生きできる食
 理想の食卓を築いてきたシルバー世代に、これからもますます元気に長生きするための食事をアドバイスするとしたら、「誤った栄養知識に左右されることなく、若いときに食べてきたものをこれからもおいしく食べ続けましょう、歳をとったからと肉や油料理を控えなくて良いですよ」ということです。
 この年代の人がどうしても肉や油料理を“敵視”してしまうのは、「カロリーが低いもの=ヘルシー」「脂肪は減らさなければダメ」という欧米の栄養学の知識が日本にも広まっているからだろうと思います。ただしずっと述べてきたように、それは欧米の話にほかなりません。欧米の食の影響をより強く受けてやや脂肪過多になりつつある日本の若い世代はともかく、シルバー世代の食には何も問題がないのです。自信を持ってこれまでの食生活を継続し、その食卓を若い世代にも伝えて欲しいところです。また、「ただ長生きすればよいのではない。クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)、すなわちより良く、楽しく生きる時間を大切にしなくてはいけない」というのが私の考え方です。食生活においても、ただ長く生きるということのためだけにあれもダメ、これもダメというのでは、クオリティ・オブ・ライフは下がってしまいます。現在のシルバー世代にとっては、働き盛りの年代、健康などにあまり気遣わずに好きなものを食べていた年代の食事こそ今後の身体的健康にもつながるというのですから、こんな幸せなことはないのではないでしょうか。
■図表6 摂取脂質エネルギー比率   資料:厚生省「平成11年国民栄養調査」
●理想の脂肪の摂り方
 「理想の食事はこれまでと同じ食生活」というだけではやや説明が不十分なきらいもありますので、おさらいの意味で、健全な食生活のポイント、特に一番意識する人が多い「脂肪とのつきあい方」を整理してみましょう。ポイントは3つです。
 1.脂肪の理想的な摂取量は、1日に必要なカロリーの4分の1
 2.脂肪をバランスよくとるには、動物性脂質:植物性脂質:魚性脂質=4:5:1
 3.「見えない油」が摂取する脂肪の4分の3を占めている
「見えない油」というのは、肉や魚、穀類や豆、乳製品など、食品そのものに含まれる脂肪のことを指します。料理するときは、素材に含まれている「見えない油」にも気を配り、いろいろバランスよく食べるように心がけましょう。

 以上、私の話がより多くの方の今後の元気で楽しい人生の参考になれば幸いです。
PREVMENU