一般社団法人日本植物油協会は、
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-植物油の美味しさ大発見-

~シェフ御用達の植物油のおいしい魔法~
Vol.3 「素材をまるく仕上げる懐の深い国産米油」龍圓(東京・浅草)

Vol.3 「素材をまるく仕上げる懐の深い国産米油」龍圓(東京・浅草)

今や多くの人が、複数の油を常備し、料理によって油を使い分けている。街場のスーパーにも、オリーブ油にごま油など、当たり前のように、複数の植物由来の油が並んでいる時代だ。世界的な健康志向の流れで、植物由来の食品に熱い注目が集まっている今、これまでなじみのなかった植物油を見かける機会はますます増えていくだろう。 そんな植物油、百花繚乱の新時代に、私たちは、どのように植物油とつきあっていけばいいのだろうか。この短期連載では、全5回にわたって、植物油に一家言を持つシェフや専門家に、植物油へのこだわりや思い、また、家庭で植物油を上手に使いこなすためのアドバイスを尋ね、「植物油との上手なつきあい方」を学んでいく。

Vol.03で取り上げるのは、浅草駅からほど近くにある「龍圓(りゅうえん)」だ。1993年、栖原一之シェフが開業した中国料理店、いや、モダンチャイニーズ、ヌーベルシノワといったほうがいいかもしれない。栖原シェフ自身も、「中国料理という看板はだいぶ前に外しました」と笑う。中国料理の枠組みを超えた料理を提供したいと語る彼が目指すのは、日本の食材を使って日本人が作る、メイド・イン・ジャパンの料理だ。今回は、その栖原シェフに、植物油を使った、3つの料理を作ってもらった。

profile

龍圓(りゅうえん)シェフ 栖原一之

龍圓(りゅうえん)シェフ 栖原一之

1964年生まれ、東京都出身。子どもの頃に食べた、フカヒレスープに衝撃を受け、料理人を志す。高校卒業後中華料理店に就職し、1993年、浅草に「龍圓」をオープンする。厨房に置かれていたiPadには、自宅で留守番している愛犬(イングリッシュセッターから産まれた雑種のぷーすけくん)の姿が映し出されていた。

米ぬかから作る米油をメインで使うメイド・イン・ジャパンの中国料理。

地元の人たちはもちろん、美味しいものを食べなれた猛者たちが電車を乗り継いで足しげく通う人気店だ。筆者もふと、美食家の友人が、「ここの料理は美味しいし、なにより食べたあと体がキレイになるような気がするんだよね」と言っていたことを思い出した。

栖原シェフ:やりたいことは常に変化していますし、コンセプトのようなものは特にありません。ただ、ずっと言い続けているのは、メイド・イン・ジャパンの料理を提供したいということです。エスプーマ(食材を泡状にする調理法)にしようが洋風の盛り付けをしようが、料理を作っているのは日本人である僕、です。中国四大料理といいますが、焼き餃子や拉麺など、日本の中国料理は、すでにひとつのジャンルだと僕は考えています。

まだ米油が今ほど一般的ではなかった10年ほど前に、栖原シェフは米油にいち早く着目。「掃除がしやすい」「まろやかな味わいに仕上がる」など、さまざまな利点から、店で使う油を国産の米油に切り替えた。

栖原シェフ:10年ほど前から国産の米油を使っていますが、それ以前は、主に大豆白絞油を使っていました。国産の油を探していて、米ぬかから作る米油にたどりついたんです。工場見学をさせてもらったのですが、山のように積まれた米ぬかから、ほんの少ししか油しか抽出できないことに驚きました。そして、使ってみると非常に使い勝手がいい。まるく仕上がり、素材の甘みが引き立つんです。

栖原シェフ:油は僕の料理に必要不可欠なもの。だからこそ、使い勝手がよく、やさしい味わいに仕上がる米油との出会いは、とても大きな出来事でした。

澄んだように美しい揚げ油でさくさくに仕上げたスッポンの春巻き。

現在、「龍圓」では、揚げ物、炒め物など、ほとんどの料理に米油を使っているという。たとえば、春巻き。同店のシグニチャーのひとつでもある、浜名湖・服部中村養鶏場のスッポンをたっぷり使ったスッポンの春巻きにもこだわりの米油を使用する。まずは1分ほど、低温で揚げるという。

栖原シェフ:こと細かな時間は決めていません。状態を見て判断し、途中で、油の温度を上げます。温度をあげると、泡のようなものがどんどん出てきます。高温にすることで、低温で調理していた時に吸っていた油が吐き出されるというわけです。

春巻きの皮のさくさく感、その中にスッポンのすべてが凝縮されていることも鮮烈だったが、調理過程を見ていて、とくに印象的だったのは、揚げ油が澄んだように美しかったということだ。

栖原シェフ:厳密にいうと、油は、ふたを開けた瞬間に酸化が始まり、その後、劣化していきます。ですから、油は頻繁に変えることが大切になってきます。これは余談になるのかもしれませんが、銀座の有名なてんぷら店に行った時、店主の方が自ら油の缶から油を出して、躊躇なく何度も油を変えていたのを見て、大きな衝撃を受けました。昔の中国料理は油をとりかえるのが贅沢とされる風習があり、茶色を通り越して、黒に近い状態になっても使っている店もあったんです。それはどうなんだろうかと薄々疑問には感じていましたが、てんぷら店の店主の方の姿を目の当たりにして、油は頻繁に変えていいいといことを確信しました。 実際、頻繁に油を変え、また米油をメインに使うことで、店の匂いも変化しました。また、米油は汚れがつきにくく、掃除がしやすいんです。油を大量に使うとすぐに換気扇が汚れてしまいます。この掃除がなかなか大変なのですが、米油の汚れは市販の洗剤でも落ちます。

素材の甘みが引き立ち、味わいをまるく仕上げる米油を活かす炒め物。

「冬野菜の炒め物」は、タケノコと九条ネギ、ほうれんそうを、米油で炒める、炒めものだ。

栖原シェフ:まずタケノコを油どおしします。火を通すよりも温めるイメージです。油どおしをすることで、周りの水分が抜けて、スープが絡みやすくなるという利点もあります。

油どおししたタケノコは一度、引き上げ、タケノコに使った油で九条ネギとほうれんそうを炒める。そこにスープと塩を入れて味を調整し、タケノコを戻し、最後にまた米油を入れて味を調整していく。何も隠すものはないとでも言うように、栖原シェフはなんの躊躇もなく、調理過程をすべて見せてくれた。そして、どの料理も調理法は至ってシンプルだ。素材と油がお互いの利点を引き出しあってるのがわかる。

栖原シェフ:米油自体には糖分はないはずなのに、甘く仕上げてくれます。これは、野菜の炒め物がいちばんわかりやすいと思います。あくまでも僕の感覚ですが、米油を使うと、ほかの油よりも、1.2倍は言い過ぎか(笑)、でも1.15倍は素材が丸く仕上がります。といっても、必要な油はあったほうがいいけれど、不必要な油はどんなにいい油でも入れません。これは、僕のポリシーでもあります。

香りのエッジを立たせたい時は、太白ごま油を。

自家製麺の麺を使った麺料理にも定評がある。栖原シェフはこの日、菜の花と蟹を使った冷麺を用意してくれた。これには太白ごま油を使っているという。

栖原シェフ:茹でた菜の花と麺をあわせ、上湯(シャンタン)と太白ごま油であえます。塩はその時の気分によって別のものを使ったりします。今回は藻塩を使用しました。

かなりたっぷりの太白ごま油を入れていたが、食べてみるとまったく油っぽくない。ごま油を使っていると気づかない人が大多数ではないだろうか。

栖原シェフ:そうでしょう(笑)? かなり多めに(ごま油を)入れていますが、油っぽさはほとんど感じないはずです。あえる時に乳化させるのがポイントです。 とはいえ、すべての麺料理に太白ごま油を使っているわけではありません。醤油ベースの冷やし中華には米油を使っています。お酢も入るので、米油でまろやかさを出したくて。ただこの和え麺のように、香りのエッジを立たせたい時には、太白ごま油を使います。冷たい麺でも、ほのかな香りがたつところが気に入っています。

栖原シェフの話を聞いていて、改めて油が持つ、無限の可能性に圧倒させられた。とはいえ、米油が私たち一般の消費者でも簡単に手に入れることができるようになったのは、ごく最近だ。「米油なんて知らない」という人も多いと思う。

栖原シェフ:油わかります(笑)。でも、いざ使いはじめればどうってことないですよ。難しいことは考えず、サラダ油を使う感覚で使ってみてください。たとえば、日本米のご飯と米油と卵でチャーハンを作るだけでも美味しいと思います。長ネギを入れてもいいかもしれません。日本米も米油も原料は同じ。合わないわけはないんです(笑)。
米油を使うと、ほかの油以上に、甘みを感じる仕上がりになります。一番いいのは比較してみることです。同じ食材を、同じように調理しても、油を変えるだけで違う料理といってもいいくらい違います。また、米油は癖がないのが個性。ぜひいろいろ試してみてください。自家製のマヨネーズやドレッシングを作るのにも重宝します。とても汎用性が広い、懐の深い油です。

文・長谷川あや、写真・中庭愉生
取材協力:一般社団法人 日本植物油協会

restaurant information

龍圓

住所:東京都台東区西浅草3-1-9
Tel:090-8720-2581
営業時間:ランチ(火~日・祝前日・祝日 12:00~ラスト入店13:30)、ディナー(火~日・祝前日 18:00~ラスト入店20:30)
定休日:月曜日・第1火曜日 ※月曜日が祝日の場合は営業
席数:24席

※コロナ禍により営業時間やメニューに変更がある可能性あり。事前に直接店舗に要問合せ。