第95号 植物油INFORMATION

トランス脂肪酸に係るアメリカFDAの決定につきまして


  2015年6月16日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、工業的に作られるトランス脂肪酸が含まれる部分水素添加油(PHOs)※1の食品への使用を原則的に禁止するという決定をしました。

  この決定は、トランス脂肪酸を継続的に過剰摂取することで、冠動脈疾患のリスクを高めることがわかってきたこと、そしてPHOsが工業的に作られるトランス脂肪酸※2のアメリカ人への主要な供給源になっていることによります。

  PHOsは植物油に水素を付加して作られます。
この水素添加という加工により、油脂の安定性や硬さが改良され、またPHOsを使用する食品では風味や食感の向上が図られる事から、多くの食品の調理や製造に使われて来ました。この油の加工の際、トランス脂肪酸が生成します。トランス脂肪酸を摂取すると血中のLDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らすことが明らかになり、継続的に過剰な量を摂取すると動脈硬化、心筋梗塞といった疾病に繋がるリスクが高まるということが多くの研究で明らかになってきました。

  これまでアメリカではPHOsはGRAS(一般に安全と認められる食品)※3という位置づけで、食品に自由に使用できる原材料でしたが、今回の決定により、2018年6月19日以降に食品に使用する場合には食品添加物として予め認可を受けることが必要になります。

  トランス脂肪酸はPHOs以外にも、反芻動物の体脂肪や乳脂肪(牛肉や乳製品)にも微量含まれ、植物油の臭いをとる際にも脱臭という工程でトランス脂肪酸が僅かに生成します。今回のFDAの決定は、人が食べるトランス脂肪酸の主要な供給源であるPHOsを規制することで、アメリカ人のトランス脂肪酸の摂取量を大幅に減らし、疾病リスクを低減するという意図によるもので、食用油や動物由来のトランス脂肪酸等は今回の規制の対象ではありません。

  我が国においては欧米と比較してトランス脂肪酸の摂取量は少なく、食品安全委員会によれば平均で全摂取エネルギーの0.31%であり、WHOの勧告※4(全摂取エネルギーの1%未満)を大きく下回っています。食品安全委員会では「日本人の通常の食生活ではトランス脂肪酸による健康への影響は少ない」、「脂質に偏った食事をしている人は注意が必要」と結論しています。

※1 部分水素添加油(Partially Hydrogenated Oils、PHOs)
水素添加とは、油の安定性や物性を改良するために油を構成する脂肪酸の二重結合部分に水素を付加する化学反応。多くの場合、油の二重結合の全てに水素を付加することはなく、一定程度の二重結合は残しておく事から、このように作られた油は部分水素添加油と呼ばれる。水素添加することで風味や酸化に対する安定性が向上し、また液体の油を固体にすることができ、食品の食味、食感の改善等にも効果がある。水素を付加する際にトランス脂肪酸が生成する。

※2 トランス脂肪酸
油を構成する脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とがあり、不飽和脂肪酸には一つ以上の二重結合が存在する。二重結合の形にはシス型とトランス型という二つの形があり、天然の油の殆どがシス形である。部分的な水素添加を行うと、天然には少ないトランス型の結合を持つ脂肪酸に変化する。これがトランス脂肪酸である。植物油の臭いをとる際、脱臭工程で油を200℃以上の高温にするが、その際に一部の脂肪酸の二重結合がトランス型に変化するため、精製された油には微量のトランス脂肪酸が存在する。反すう動物では、消化管内の微生物の働きでトランス脂肪酸が生成するため、体脂肪や乳脂肪に少量のトランス脂肪酸が存在する。

※3 GRAS(Generally Recognized As Safe)
アメリカの制度で、一般に安全であるとされる食品、原材料のこと。食品添加物のような規制を受けずに食品に使用できる。GRASの位置付けが否定されることは、食品に使用する場合には食品添加物としての規制を受けることになる。

※4 WHOの勧告
2002年にジュネーブで開催された「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するFAO/WHO 合同専門家会議」で示されたもの。トランス脂肪酸の摂取量については各人の総エネンルギー摂取量の1%未満にすべきとの勧告が出された。

以上