植物油とパン粉、おいしい関係
2.“カットレット”から“カツ”へ

  日本のフライの代表であるトンカツは、コートレット(フランス語)もしくはカットレット(英語)に由来しますが、日本人の味覚に合うように調理法が変化しました。

  フランス語のコートとは、仔牛、羊、豚などの骨付き背肉をカットした肉を意味し、これに塩・コショウを振りかけ、小麦粉、卵黄、パン粉にまぶし、バターで両面をきつね色にまで焼き上げたものがコートレットで、揚げものではありません。オーストリアの名物料理ウィンナーシュニッツェルもこれと似た調理方法ですが、肉を薄く叩いて延ばすところが異なっています。

  また、英語のカットレットの場合は、魚のソテーも含まれるようで、海外に旅行した方が日本のカツレツのイメージで注文すると、全く異なる料理が出てくるという笑い話もあるようです。ともあれ、カツレツは瞬く間に庶民の味覚として広がり、大正時代には3大洋食の一つに数えられたということです。

  でも、ナイフとフォークに不慣れな日本人には、カツレツはあこがれの料理であっても、簡単に家庭に入ってくる料理ではありませんでした。

  あこがれの料理カツレツは、昭和初期のトンカツの登場によって庶民の身近な料理になります。

  明治の時代、牛鍋がブームになったように、カツレツの素材も当初は牛肉が主体でしたが、大正になり豚肉を用いたポークカツレツが普及します。そして、パン粉の改良がカツレツの味に革命をもたらしました。それまで用いられていたビスケットや乾パンを砕いた固いパン粉に代わって、パン屋さんの焼いたパンを砕いて作る柔らかく風味の高いパン粉が流通するようになりました。パン粉の粒の大きさも様々なものが供給されるようになり、用いるパン粉によってカツレツに微妙な味わいの変化をもたらします。

  最後が油を用いた調理法の変化です。当初のポークカツレツは、輸入されたカットレットの調理法そのままに、厚さ1cmほどの豚肉を衣にまぶし、少量の油で焼くように揚げるもの(シャローフライ)でしたが、これが3cm程度の厚さの豚肉を衣にまぶし、たっぷりの油で揚げたもの(ディープフライ)となり、“サクサク”、“ふんわり”の食感がある料理に変身したのです。そして、食べやすい大きさに切り分け、お箸で食べる料理になって、いま、私たちがなじんでいるトンカツの誕生となりました。

  西洋の調理法が天ぷらの調理法と結びついたと言えるかもしれません。“焼く”から“揚げる”への変化が、和風洋食としてのトンカツの地位を不動のものにしました。

【 図2 トンカツとカツレツ 】
(一目で違いが分かりますね)

トンカツ
トンカツ

カツレツ
カツレツ

資料:全国パン粉工業組合連合会提供
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