オリーブ油のお話し

9.イタリア、スペインの主な産地と品質の特徴

 オリーブ油は、産地の気候や土壌条件によって品質が異なってきます。それぞれの産地は、自分の地域のオリーブ油こそ最高の品質であると強い自己主張をします。日本にもさまざまな産地のオリーブ油が輸入され、妍を競っています。

 そこで、日本でただ一人“オリーブオイル・テイスティングパネル・リーダー"の資格を取得した日清オイリオグループ株式会社の鈴木俊久さんに、産地と品質の特徴、オリーブ油の品質の見分け方について解説をお願いしました。

 鈴木さんは、自社のオリーブ油の品質を確認するため研鑽を積んで2003年にパネリ・リーダーの資格を得、その後、毎年の厳しい試験をクリアして資格を継続してこられました。ただ、2006年にIOOCは資格認定の制度を変更し、原則として民間人には資格を付与しないこととしたため、今後、日本の民間企業の方が資格を取得することは非常に難しくなっているようです。

テイスティング中の鈴木俊久さん(写真)
【 テイスティング中の鈴木俊久さん】

表5 国際オリーブ油協会の定めるオリーブ油(食用)の定義と規格
【 テイスティング用のボトル(※オリーブ油を色味で判断しないように、ブルーの着色がなされている)

(1)効率性追求のスペイン、地域性重視のイタリア

 スペインは、オリーブ油生産国としては後発の国ですが、世界最大の生産国になった背景には、高い生産性を上げ、数量的優位性で国際市場を制するという方向を志向したことが挙げられます。国内生産のほとんどがアンダルシア地方に集中し、区画された農場に整然と立ち並ぶオリーブの木、機械化された収穫や木の剪定作業、そして、限定した品種で高い生産性と安定した品質を目標としています。したがって、産地や品種による特徴をそれほど主張しないのがスペインの特徴と言えるようです。

 これに対し、オリーブを“神から与えられた木"と考えるイタリアは、昔から栽培されてきた農場を守り、農場の区画も不揃い、品種や樹齢も様々というところに特徴があり、収穫もいまだに手収穫が結構残っています。正確に数えられたわけではありませんが、イタリアで栽培されているオリーブの品種は400種を超えるとされています。このため、イタリアでは、産地ごとに特徴を有するオリーブ油が生産され、地域ごとの食材に適した料理が発達してきました。


イタリア地図

(2)イタリアの産地とオリーブ油

 南北に細長いイタリアは、冬季には冠雪をいただく北部から、温暖で乾燥気候の南部まで気象条件に大きい開きがあります。オリーブも、それぞれの気象条件に適合した品種が栽培されています。

 主な産地は、北部、中部、南部に分けることができます。それぞれの地域と、そこで生産されるオリーブ油の品質の特性を簡単にご紹介しましょう。といっても、収穫する時期や、その年の天候などによっても風味が変化するので、産地と品質の特性といっても必ずしも一定ではないことをご理解ください。

また、地域の食材との組み合わせも、オリーブの品種が淘汰される重要な要素であったと考えられます。

南部ではパスタ料理を、トスカーナでは肉や豆を、北部では魚介類をそれぞれ多く食する傾向があります。そうした土地の食生活に合ったオリーブが自然選択され、多く作られているわけです。

自分たちが食べるためにおいしいオリーブ油を作ろうというイタリア人らしい地産地消の精神が根付いていると言えるでしょう。


【北部地域 リグーリア (Liguria) 州】

淡い黄色の色調、軽やかな香り、そして柔和な風味を特徴とします。主な栽培品種は、タジャスカ種です。

【中部地域 トスカーナ(Toscana)州、ウンブリア(Umbria)州】

 長い栽培の歴史を有し、イタリアでも指折りの品質を誇っています。
 トスカーナ州のオリーブ油は、輝くような鮮やかなグリーンの色調、新鮮で青々しいフルーティーな香りとピリッとする辛みがあります。特に、10~11月に早摘みされるオリーブから取れるオイルは、まだ未成熟な青々しい実そのものの味と香りがあり、スパイシーな辛味や苦味もきいています。
 ウンブリア州のオリーブ油も自己主張の強い特徴を有し、青々しさの中に重厚さを感じさせる風格ある風味を有しています。
 中部地域の主な栽培品種は、フラントーイオ種、レッチーノ種、モライオーロ種等です。

【南部地域 プーリア(Puglia)州、カラブリア(Calabria)州、シチリア(Sicily)州】

 イタリアで最大の生産地であるプーリア州を含み、イタリアのオリーブ油のほぼ7割が南部地域で生産されます。
 プーリア州のオリーブ油は、やや緑がかった色調にオリーブ果実本来の香りを漂わせ、素朴でオリーブ油らしい味わいを特徴とします。
 南部で生産されるオリーブ油は、紙面で紹介し尽くせないぐらい種類が多く、いろいろな味わいを出しています。10~11月の早摘み品から翌年1~2月まで十分に熟させたものなどさまざまで、ハーブのような香りや、リモーネのような華やかな香りのもの、ちょっとナッツのような味わいのものまで幅広い風味のバリエーションが見られます。主な栽培品種は、オリアーラ・バレーゼ種、コラティーナ種、カロレア種、ビアンコリッラ種、ノッチェラーラ・ベリーチェ種等です。


 これらは、地域ごとの特徴を示したもので、品質の善し悪しを示すものではありません。先にも述べましたように、それぞれの地域の自然条件に適し、そこで生産される食材と相性の良いオリーブ油を求めてきた結果として定着した特性といっていいでしょう。ですから、品質ではなく、自分がどのような食材を、どのように調理するかという視点から、これらの特性を知っていただくと、オリーブ油の愉しみ方が一層広がることになるでしょう。

 また、このような地域特性を強調し、製品の出自を明らかにする制度として、EUにはトレーサビリティーに基づくIGP(保護指定地域表示)、DOP(保護指定原産地表示)という制度があります。

 EU圏内の伝統ある加工食品や食材について、IGPは州のようなやや広いエリア内の生産品であって、規定の品質・製造基準に合格した特産品であることを保障し、DOPは、町、村のような狭い地域の特産品であることを示す制度です。例えて言えば新潟県のコシヒカリというときはIGP、魚沼郡のコシヒカリというときはDOPと言えばわかりやすいでしょうか。

 特徴ある風味のオリーブ油を選ぶときには、容器に記されたこれらのマークを探すのも良い方法でしょう。ただ、DOPは生産地域が狭いエリアに限定されていますから、例えば不作の年には全くお目にかかれないことも生じます。また、DOPはその地域の伝統的な風味を保持したものですから、すべてが日本人の口に合うかどうかは別問題です。

表5 国際オリーブ油協会の定めるオリーブ油(食用)の定義と規格
【IGP、DOPマーク】
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