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 日本人にとって好ましい栄養摂取の指針となる指標として、これまで、厚生労働省は5年ごとに「日本人の栄養所要量」を定めてきました。この指標は、我が国の栄養改善に関する政策実施はもとより、栄養士が栄養指導をする場合の根拠や、食品産業界が新しい製品を開発するときの参考資料として幅広く活用されています。

 この指標の第7次の改訂作業が厚生労働省で進められてきましたが、2005年4月から適用される新しい指針として「日本人の食事摂取基準(2005年版)」[以下「食事摂取基準2005」]が2004年11月に定められました。

 これまでの例にならえば、新しい指標は「第7次改定日本人の栄養所要量」という名称になるところでしたが、今回は名称が変更になりました。これは、所要量、食事摂取基準 (DRIs, dietary reference intakes)などの言葉の意味をより厳密に理解していただくための名称変更であるとの説明が行われています。

 この新しい指標の特徴の一つに、脂質摂取量について目標量という概念が用いられていることがあげられます。目標量とは食事摂取基準の一つで、生活習慣病などの疾病罹患率や疾病による死亡率を低くすることができると考えられる摂取量のことで、上限、下限という範囲で示されています。この目標量の設定にあたっては、これまでに報告されている日本人の脂質摂取に関する論文類の結果から、直接、目標量が設定できる場合はその値を用いることとされました。例えば、飽和脂肪酸の下限値やコレステロールの上限値がそれに当たります。

 その他の脂肪酸、脂質エネルギー比率[総エネルギー摂取量に占める脂質由来のエネルギーの割合を言います]は、日本人に関するデーターの蓄積が不十分なため、まず、欧米の関連文献を集めたデーター集(エビデンステーブル)が作成されました。そして、それらの内容を集約し、日本人の性別・年齢別による脂質摂取量の分布を参考として摂取基準が策定されました。

 どちらの場合にも、総説でなく、個別の根拠(エビデンス)を重視するという考え方に立っているため、「食事摂取基準2005」の本文中には、根拠となる原著論文が数多く引用されているのが特徴です。


 ところで、第6次改定「日本人の栄養所要量」では、脂肪酸の望ましい摂取について、「飽和脂肪酸(S),一価不飽和脂肪酸(M)、多価不飽和脂肪酸(P)の望ましい摂取割合は概ね3:4:3を目安とする。n-6系多価不脂肪酸とn-3系多価不脂肪酸の比は、健康人では4:1程度を目安とする」と記載され、各脂肪酸摂取の目安が比率で示されていましたが、今回は摂取量が範囲で示されることとなりました。その表現の仕方は、脂肪酸の種類により、1日当たりの摂取量(g/日)で示される場合と、脂質エネルギー比率で示される場合があります。どちらで示されても、脂肪のエネルギー量9 kcal/g[脂肪のアトウォーター]を用いて、単位の変換(各脂肪酸の重さとエネルギーとの相互の換算)が簡単に行えるようになっています。

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