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 日本植物油協会は、これまで、消費者の皆様にいくつかのアンケート調査へのご協力をいただきました。また、私どものホームページにも様々な貴重なご意見を頂戴しました。これらは、私どもの日常業務への反省材料として活用いたしております。
 今回は、そのようにお寄せいただいたご意見の中から気になるいくつかのご意見をご紹介し、そのことに対する私たちの見解を述べさせていただきます。

 「安売りの油は、品質の悪いものだから買わないようにと母から聞いている」、「生活に余裕も出てきたから、安い悪い油ではなく、高い油を求めるようにしよう」……。こんなご意見が寄せられました。

 とても気になるご意見です。結論から言うと、植物油には、いわゆる“安かろう、悪かろう”というものはありません。最近でこそ少なくなりましたが、かつて、デパートなどのバーゲンセールでは、本来の商品価格を下げるのではなく、“バーゲン専用”に製造された衣類などをよく見かけました。このようなことが、冒頭に申し上げたご意見に反映しているのかもしれません。他の商品のことは存じませんが、植物油に限りバーゲン専用に製造したものはまったくないことを知っていただきたいと願っています。

 スーパーなどで安売りされている植物油のラベルをよくご覧下さい。そこに“JAS”のマークがあれば、厳しいJAS(日本農林規格)を満足する品質であることを示しています。植物油のJASは、レベルの高い規格です。私たちを訪問される海外の製油業界の方は、私たちがお届けしているJASの製品を見て、一様に「自分たちの国では、こんな優れた品質の油は作れない」と驚嘆されます。

 植物油の製造工場をご覧になった方はお分かりだと思いますが、植物油製造業は巨大な装置を利用する産業です。一度稼働すると、200日近く連続して操業する装置です。したがって、装置を一度止めて、特売専用の生産を行うことになれば、かえってコストがかかり、製品の価格が高くなります。特売は、スーパーなど小売店が集客の呼び水という意味で、自らの販売利益を下げて実施されるもので、製造工場が特売専用の油を要求されることはありません。

 通常の植物油の価格は、それぞれの品質の差によって価格差が生じるのではなく、主としてそれぞれの需給要因で価格が決まります。次ページの表は、世界の主な油糧種子の生産量と貿易量(輸出量)を示しています。生産・貿易ともに大豆が圧倒的な数量を誇り、それより一桁違いで菜種、綿実、ひまわりが続いています。国際市場では、大豆を基礎にしてそれぞれの種子の価格が決まって来ることになります。植物油のコストの60%以上は原料価格が占めています。したがって、国際市場での原料価格の差や、そのときどきにおける需給の状態によって植物油の価格が決まります。




 日本では、大豆と菜種を基準に、他の油の価格が決まります。サラダ油は、大豆油と菜種油が主な原料です。これらより原料価格が高いひまわり油の価格は、サラダ油より高くなる傾向にあります。決して、サラダ油の品質がひまわり油より劣っているというわけでも、手抜きをした製造をしているわけでもありません。
もっとも、脂肪酸の組成は異なってきますから、それぞれの栄養価値は変わりますが、それは価格の高低を決める要素にはなりません。

 「もっと価格が高い油はどうなのですか?」というご質問がありそうですね。例えば、高い油の代表はオリーブ油です。オリーブ油は世界で260万トン程度の生産しかなく、そのほとんどは生産国で消費され、貿易にまわる数量は50~60万トンに過ぎません。一方、優れた風味や地中海料理の世界的普及によって需要は強く、したがって、価格が高くなるのです。また、果肉から抽出する油で、種子ではなく製品(原産地で加工)で流通するため、品質保持にもコストが高くなりがちです。

 「健康油は何故高いのですか?」という質問が後を追っかけてきます。健康油は、脂肪を付きにくくすることや、コレステロールを下げる機能などがうたわれていますが、これらの機能を付与するために特別の技術やコストが必要になります。健康油は、高品質だから高いのではなく、特別の機能に対する需要の強さと高い開発コストが価格を高くしています。

 お分かりいただけたでしょうか。日本には昔から、“安かろう、悪かろう”という言葉があります。物資が不足する頃には、そのようなことが現実にあったことは否めません。しかし、物資が豊富になり、消費者の皆様の品質に対する選択が厳しい今日、少なくとも植物油については、この言葉は死語になっていることを是非ともご理解いただきますようお願いいたします。

 薬剤や化粧品は、“高い方が何となく効能がある”という気分が支配しがちです。高い化粧品を使用することへの満足感もあると思います。しかし、食品は、“良いものを適正な価格で供給する”ことが基本です。私たちは、この基本に基づいて、品質、価格ともにご納得いただける製品をお届けすることを基本使命としています。
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