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◆ 京都議定書?

  “京都議定書”という言葉をしばしば耳にされるのではないでしょうか。1997年に京都で“気候変動に関する国際連合枠組条約”を締結している国による第3回条約締結国会議(地球温暖化防止京都会議)が開催されました。この会合で、“温室効果ガス削減のための議定書”が採択されました。これが、開催地である京都の地名を入れ、通称“京都議定書”と呼ばれているものです。

  気候変動枠組条約(通称)は、1992年に国連環境開発会議で155カ国の署名を以て成立した条約で、地球温暖化をもたらすガスの濃度を安定させるため、加盟国がとるべき枠組みを定めていますが、具体的な規制措置はその後の議論に委ねられ、その議論が熟したのが京都会議です。京都議定書は、2008~2012年を約束期間として、先進国において温暖化効果をもたらすガスの排出量を5%削減(森林などによる吸収率を含む)することを合意しました。この中で、日本においては、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素及び代替フロン3物質について、1990年を基準として6%削減することを約束しています。

  しかし、アメリカ(達成目標7%削減)は、この達成は難しく、経済活動の減速を招くなどの理由から批准を拒否し、その他にも条約発効の条件が整わない状況から、京都議定書は未だ条約として発効していない実情にあります。


◆ 環境自主行動計画

  これらに先立って、日本における経済団体活動の指導機関である、社団法人経済団体連合会(現在の「日本経済団体連合会」)は、1991年4月に「経団連地球環境憲章」を策定し、会員である各経済団体に、環境に配慮した経済活動の実施を呼びかけています。私ども日本植物油協会に参加する企業も、経団連の呼びかけに応じ、これまで環境負荷を削減するような製造方式への移行に努力してきました。

  経団連は、更に1996年7月に「経団連環境アピール」を発して、各産業界が自主的な発意によって「環境自主行動計画」を策定し、具体的な目標をもって環境負荷の低減に努力することを呼びかけました。

  このような経過から、京都議定書に盛り込まれた削減目標は、政府主導ではなく産業界の自主的な取り組みとして進めていくことが確認されました。


◆ 製油産業の「環境自主行動計画」

 
環境自主行動計画は、日本経団連により各産業界の策定状況が報告されています。私ども植物油製造業も、昨年以来、日本植物油協会に作業部会を設けて計画の策定に取り組んできましたが、本年7月末にその成案を得ました。

 ここでは、私どもの環境問題への考え方を含めて、製油産業環境自主行動計画の概要をご紹介いたします。


◆ 製油産業におけるエネルギー利用

 私たちの業界は、植物油製造業あるいは製油産業と称されます。しかし、その態様は様々で、年間数10万トンの大豆、菜種を搾油する大規模な装置を有する企業、規模は大きくないものの特定の優れた油を製造している企業、精製のみを行う企業などが併存しているのが実情です。このような多様な構造を持つ製油産業に共通した目標を定めることができるのかどうかという疑問があり、計画策定が遅れていました。しかし、植物油という共通した商品を有する企業が、共同で一つの目標を持つことは意義深いとの判断で、計画策定をとり進めることとしました。

 製油産業は、基本的には大きい機械・装置を必要とする産業です。特に、大豆などの原料を圧搾し、油分を抽出するために多くのエネルギーを消費しなければなりません。数ある食品産業の中でも、エネルギー消費が多い産業であることは十分に理解をしています。

 このため、1990年代はじめから、いわゆる省エネルギー型とされる施設・機械の導入に取り組み、燃料についても二酸化炭素発生量が少ないものへの転換を進めてきました。

 一方、製油工程で生じる排出物については、再利用を進めています。製油産業は、大豆などの原料を、油と粕に分ける産業です。したがって、他の食品工場で発生しがちな原料の残滓は製油産業にはなく、粕は家畜の飼料や有機肥料原料となる大切な製品なのです。製造工程で排出されるそのほかの物質も、高いリサイクル率となっています。

 しかし、ここにとどまることなく、更に環境負荷を低いものにしていこうというのが、製油産業環境自主行動計画なのです。計画は、地球温暖化対策と、廃棄物対策で構成しています。


(1)地球温暖化対策  ― 生産量一単位当たり二酸化炭素発生量を15%削減へ ―

 京都議定書の第一の目的は、温暖化効果をもたらす物質の抑制・削減にあります。製油産業から発生する温暖化効果物質は、二酸化炭素であることから、これをどのように抑制するかが重要な課題となっています。しかし、この削減は大変難しい課題です。特に、植物油は消費がなお右上がりで増加しており、これに対して生産を増加させねばなりません。このことは、エネルギーの消費も並行的に増加せざるを得ないことを意味しています。削減の基準となる1990年に、194万トン余りであった植物油の生産量は、2002年には227万トン余りと16.3%増加しました。これに対してエネルギーの消費量は、先に述べたような省エネルギー機械・施設の導入に努めましたが、同じ期間に9.6%増加しました。生産量の増加率との差が、省エネルギー効果と言うことができます。更に、燃料の切り替えをはかったことから、二酸化炭素の発生量(推計値)は、1.7%の増加にとどめることができました。

 これらから明らかなように、植物油生産量1単位当たりのエネルギー消費量及び二酸化炭素発生量は確実に減少しています。これを試算すると、同じ期間に、単位当たりの二酸化炭素発生量は14.3%減少したことになります。

 今後の植物油の消費が増加するのか否かは不透明なものがありますが、製油産業は、生産量1単位当たりで発生する二酸化炭素の量を更に削減することを最大の努力目標とすることといたしました。具体的には、1990年に対し、目標年次の2010年には15%以上の削減を目標といたします。

 このためには、企業合併を契機とする工場の再整理、引き続く省エネルギー機械・装置の導入、こまめなエネルギー管理などに一層の努力が必要であると考えています。


(2)廃棄物対策  ― 工場排出物の95%以上をリサイクル、“廃棄物ゼロ”産業を目標 ―

 製油工場の生産工程で発生する排出物は、廃油、ソーダ油滓、廃白土などです。これらの中で、廃油がほぼ全量が再利用されているのをはじめ、その他の物質を含めたリサイクル率は、2002年で94%に達しています。中でも数量の多いソーダ油滓と廃白土は、97%のリサイクル率となっています。

 このように見ると、製油工場でこれ以上の排出物再利用を進めるのは、非常に難しい課題となっています。しかし、様々な努力を積み重ねて、全体の再利用率が95%を超える水準にまで高め、“廃棄物ゼロ”産業を目指したいと考えます。


(3)環境自主行動計画の管理  ― 各企業による進捗管理がポイント ―

 環境自主行動計画は、計画を策定することが目的ではなく、これを業界の総意として実行していくことが大切です。全ての関係企業がこの計画を目標として、地球環境への負荷の抑制に少しでも寄与するため努力していくことが求められます。

 しかし、冒頭に述べましたように、ひとくちに製油産業というものの、その構成は多様なものとなっています。全ての企業が一斉にこの目標を達成できない場合も想定されます。私たちは、この検討を進める中で、“業界の総体として”ということをしばしば議論いたしました。目標を達成できた企業がそれを以てよしとするのではなく、更に高いレベルを目指すことによって、業界全体のレベルを高めるという共通の認識によって、この計画の達成に努めることを確認しています。

 製油企業のほとんどは、ISO14000シリーズを取得し環境管理に努力をしていますが、これからも、この手法を活用して少しでも地球環境の保全に寄与したいと願っています。

*「製油産業環境自主行動計画」は、当協会ホームページに公開しています。
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