王室が推進するバイオディーゼルの実用化

(1)ロイヤル・プロジェクト
 パームの生産振興策を推進するとともに、パーム油を自動車などの燃料として利用することにより、将来のパーム油の需要を拡大することが計画されています。
 タイは石油の輸入国で、年間の輸入金額は約2,500億バーツ近くに達しています。また、原油の国際価格が上昇傾向にあるなかで、国内の経済発展に伴って石油の消費量が増加しており、タイの経済を圧迫する要因となっています。このため、タイ王室が中心となってパーム油を利用した石油代替燃料を開発するロイヤル・プロジェクトが推進されることとなりました。
表3 タイの原油輸入金額の推移

  1998年
1999年 2000年 2001年 2002年
原油輸入金額(百万バーツ) 119,967 148,120 246,034 256,754 248,281
資料:タイ中央銀行
 プロジェクトの提案書では、パーム油をメチルアルコールなどと化学反応させて生成した脂肪酸エステルを燃料として利用する“バイオディーゼル”、パーム油を化学変化させることなく、パーム油とディーゼル油を一定の割合で配合した“パームディーゼル”などの利用を促進することにより、次のような効果が見込めるとしています。

1) 石油輸入代金の節約
 ディーゼル油に替わる燃料として、わずか5%のバイオディーゼルを製造することができれば、20億リットル以上の原油輸入の削減となり、輸入価格で見ると10億バーツ以上の節約になること。

2) 環境への影響
 バイオディーゼルはディーゼル油に比べて硫黄の含有量が極めて少ないことから、排気ガスに含まれる硫黄酸化物の含量をほぼゼロにできるほか、有害な炭化水素や芳香族化合物も75~90%削減できると見込まれること。また、化石燃料の使用量を減らせることから、温室効果ガスである二酸化炭素の新たな生成を防ぐことができ、地球温暖化防止の効果もあること。
 また、バイオディーゼルはディーゼル油に比べてわずかに粘性が高いことからエンジン潤滑作用があり、ディーゼル油にバイオディーゼルを1%配合するだけで、エンジン寿命が長くなり、廃棄物の減量化にもつながること。

3)農業機械用燃料の自給による農業者のコスト削減
 バイオディーゼルは農産物であることから、農村地域を対象にバイオディーゼルやパームディーゼル製造技術を導入し、農民が自ら燃料を生産できるようにすることで、農作業で使用するトラクター等の農業機械の燃料を購入する必要がなくなり、農業生産のコスト削減に効果があると考えられること。

4)農産物の利用促進による付加価値の創出
 パーム油をバイオディーゼルに加工することにより、パーム油の付加価値が増加し新たな需要が拡大することから、パーム油豊作時の供給過剰等による値崩れが防止できると期待されること。

5)国内のエネルギー安定供給の実現
 現在、大部分を輸入に頼っているエネルギーを、国内の主要生産物である農産物から燃料を生産することが可能となれば、諸外国の情勢に左右されず、エネルギーの安定供給が可能となると考えられること。
 
(2)バイオディーゼルブーム
 プロジェクトでは、既に実用化が進んでいるEUや米国の知見を参考にしつつ、タイの植物油を用いた様々な試験を行った結果、バイオディーゼルやパームディーゼルが通常のディーゼル油と遜色なく自動車などの燃料として利用できることなどが明らかになりました。
 また、これらの研究成果を受け、2001年には、タイ石油公社がバンコクにある直営のガソリンスタンドで、輸入品のディーゼル油にタイ産のパーム油を9対1の割合で配合したパームディーゼルを、通常のディーゼル油よりも0.5バーツ安い価格で試験的に販売するなどの実用化試験が実施されました。
 このような研究成果はタイ国内にバイオディーゼルブームともいえる状況を作りだし、各地でバイオディーゼルやパームディーゼルを製造する業者が現れましたが、一方で粗悪な製品も流通したため、バイオディーゼルやパームディーゼルの使用により自動車のオイルフィルターに支障が起きているとの指摘が自動車修理工場から出されるなど、バイオディーゼルの普及に水を差すこととなりました。
PREVMENUNEXT