3.エル・ニーニョ現象が起きれば、油屋が儲かる?

 さて、そこで“エル・ニーニョ現象が起きれば製油業界が儲かる?”のかどうか検証しなければなりません。

 “風が吹けば桶屋が儲かる”という言葉は、薄い因果関係をたどって行けば、やがて突飛な結論が導き出されるという、もともと起こりえないことの例証に使われる言葉です。その推論は、風が吹くと砂ボコリが立ち、それを目に入れて目を傷める人が増える。昔は目の悪い人の職業機会が乏しく三味線引きになる人が多かったため、三味線の需要が増える。三味線の需要が増えると、三味線の皮に使うために猫を殺す。猫が減ると鼠が増えて、桶をかじる。そこで桶を修理することが増えて、桶屋が儲かるというものです。

 そこで、この突飛な推論を、“エル・ニーニョ現象と製油業界”に置き換えて因果関係を追ってみましょう。

 エル・ニーニョ現象は異常気象をもたらし、異常気象は油脂原料の不作を招く。不作であれば油脂原料価格が高騰し、植物油の価格も高騰するかもしれない。だから、その前に植物油を買っておこうとして仮需が発生する。需要が一時的に高まるので、植物油の価格が上昇する。価格が上昇すれば、製油業界の儲けが増える、という“風と桶屋”よりは経済学的に根拠のある推論が成り立つのです。

 この推論を、実例をあげて検証してみましょう。

 2001年春から2002年夏のエル・ニーニョ現象は、北米やオーストラリアに大干ばつを引き起こし、カナダとオーストラリアの菜種、アメリカの穀物生産に大被害をもたらしました。菜種の国際価格は以前より50%近く上昇し、豊作であった大豆も穀物全体の市場にあわせて価格が上昇しました。そして、大豆油や菜種油の国際価格も急上昇しました。推論では、ここで日本でも目端の効く人は大豆油や菜種油の価格上昇を見込んで、安いうちにこれらを買いに走り、需要が一時的に膨らむ現象(仮需要、略して“仮需”といいます。)が生じ、需給が逼迫するので油の価格は適正だと思われる価格より上がることになるはずです。しかし、現実は“理論”どおりには動かないものです。
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