◆副産物は主産物? こんなところにも植物油の仲間がいます

加工用の需要の増加

 さて、副産物から離れて、今度は本体の植物油。これも意外な用途の広がりを持っています。図2を見てください。
図2・食用植物油脂の用途別需要量の推移
資料)日本植物油協会推定
 
(千トン)
1990年 1995年 2000年
家庭用 500 515 470
業務用 605 587 624
加工用 769 971 1,155
 食用加工油脂原料 409 436 446
 マヨネーズ・ドレッシング原料 195 206 229
 その他加工用 165 329 480
合計 1,874 2,073 2,249
食用植物油の用途は大きく「加工用」、「業務用」、「家庭用」に分けられます。 大ざっぱにいえば、加工用は加工油脂や加工食品の原料、業務用は外食店や惣菜店などで使われるものです。このデータはメーカーから出荷されるときの容器、容量で区分したもので、「16.5kg以上の主としてバルクもの」を加工用、「8~16.5kg未満の大缶容器」を業務用、「8kg未満の小型容器」を家庭用として集計されています。

 近年、家庭用の需要が徐々に減少する傾向にあるのに対し、加工用需要が大きく伸びています。このことは、私たちの食生活に加工食品が大きいウエイトを占めてきたことを示していますが、植物油から見れば植物油であることを意識せずに食べられる割合が増えていることを意味しています(なお、加工用には工業用途のものが含まれています)。

ご存じですか、こんなところで使われる植物油

 植物油の加工品の多くは私たちが身近に接しているものです。でも、身近にありながら知らなかったこと、そして、こんなところにも植物油が使われているの?と、意外性に驚くこともあります。工業品も含めてそんな話題を集めてみました。

(1)マーガリン

 マーガリンが植物油加工品の代表選手であることは、皆さんもよくご存じのことでしょう。マーガリンには動物油や魚油なども原料として使われるのですが、主体は植物油です。最近では「マーガリンといえば植物性」というのが一般的になっていますね。

 マーガリンでも植物油と同様に家庭用の消費は横ばいか微減の状態が続いています。マーガリンの場合は、外食産業やケーキ屋さんで利用されるものやベーカリーなど食品加工業で使用されるものをすべて業務用と分類しています。見た目には同じマーガリンに見えても、ケーキ用、デコレーションクリーム用、パイ生地用などさまざまな用途に応じて “口どけの良さ”“延びの良さ”など工夫が凝らされています。用途によって求められる性質が違い、それに合わせて多様な製品が開発されてきたのです。今日買ったパンは、どんなマーガリンを使用しているのかな?と、ちょっと考えながら食べるのも楽しいものです。家庭でパンを作る方は、おいしいと評判のパン屋さんでどんなマーガリンを使っているのかたずねてみてはいかがでしょうか。

(2)マヨネーズ/ドレッシング

 これも定番です。ほとんど毎日の食卓に登場するサラダに不可欠なマヨネーズ、ドレッシングも植物油を加工した製品です。ところで、見た目ですぐに判別できても、意外と知られてないのがマヨネーズとドレッシングの違いです。JASでは、マヨネーズはドレッシング類のひとつ。ドレッシング類は粘度や含有する油分の量で分類されており、マヨネーズは粘度の高い「半固体状ドレッシング」、油分は65%以上とされています。

 マヨネーズ、ドレッシングもバリエーションが増え、何種類も冷蔵庫に入っているという家庭は珍しくないでしょう。植物油のおいしさと栄養を手軽に味わえ、シンプルなメニューの趣を広げてくれるドレッシング類。今後もまだまだ顔ぶれが増えていきそうです。

(3)その他加工食品

 私たちの食生活は、加工食品なしでは語れなくなってきましたが、ここでも植物油が活躍をしています。

 フレンチフライドポテト、から揚げ、揚げ水産練り製品、油揚げ、ポテトチップス、揚げあられ/せんべい、フライビーンズ、かりん糖、パン類、ケーキ類、ビスケット/クッキー、ドーナツなど、植物油を用いた加工食品を数え上げるときりがありません。これらは、植物油で調理する食品であるという商品特性に加え、揚げることにより水分を蒸発させて保存性を高めること、反対に、植物油で覆って乾燥を防ぐことなど植物油の持つ効果が活用されているのです。インスタントラーメンが、蒸した麺を油で揚げることにより多坑質の乾燥麺に変え、スープを吸収しやすくしていることはご存じだったでしょうか。また、それぞれの風味を高めるため、商品に応じた植物油が使い分けられていますが、どんな油を使っているかはそれぞれの企業秘密だそうです。

 ここまでは定番の商品です。次に、植物油はこんなことだってできるぞという事例をお知らせしましょう。

★ チョコレートに植物油

 洋菓子の代表の一つであるチョコレート。ヨーロッパが本場ということですが、日本のチョコレートも世界水準です。でも、ヨーロッパと日本ではチョコレートの感触がちょっと違うことをご存じですか。日本のチョコレートは口に入れるとふんわりとろけるのが大きい特徴です。無論、ヨーロッパのチョコもとろけるのですが、微妙に違いがあります。その秘密は植物油。日本の技術が開発した植物油が、とろける日本のチョコレートを生み出したのです。チョコレートの原料はカカオマス、カカオバターに砂糖、そして少しの工夫を凝らした植物油をを加えることで、あのふんわり、とろりが実現されるのです。

★ そうめんに植物油

 日本の冬の風物詩にもなった手延べそうめん干し。このそうめんにも植物油が働いています。手延べそうめんは、一本の麺を細長く延ばして作られます。この延びる力は、小麦粉に含まれるグルテンの働きです。そして、延びた麺がくっつかないように、表面に植物油が薄く塗られています。そうめんの肌をそっと包み込み、滑らかさを演出しているとでも表現すればよいのでしょうか。この植物油(綿実油が主に使われているようです)がそうめんの過乾燥を防ぎ、風味を保つ働きもしているのです。

★ ケーキのトッピング、コーヒーフレッシュ

 乳製品(クリーム)が主体であったトッピングやコーヒーフレッシュでも植物油が活躍しています。乳化技術の進歩で、乳製品と混合して、あるいは単独でホイップクリームやコーヒーフレッシュが作られ、動物性脂肪を敬遠したい人達やさっぱり感を求める人達に歓迎されています。無論、アイスクリームやラクトアイスにも応用されています。ホイップクリームをお買い求めのとき、ちょっと原材料表示を見てください。植物油という名称が目に付くはずです。最近では、植物油チーズなども登場しています。

★ ごはんに植物油

 1995年、米の生産が不足し、中国、タイなどから緊急輸入が行われました。しかし、日本米の風味に慣れた私達にとって輸入米は概して不評を買いました。国産米との抱き合わせ販売や、中国やタイからの抗議などが問題になったことは貴重な教訓でした。ところで、このときに植物油が意外な活躍をしました。外国産米であっても、ご飯を炊くときに植物油をごく少量混ぜれば、おいしく食べられるということで、炊飯専用油が販売されたこともありました。でも、これは、このときだけの話題ではなく、ご飯を提供する外食産業などでは以前から行われていることです。微量の植物油を混ぜて炊飯すれば、お釜やしゃもじ、おにぎりを握る手にご飯がつかず、植物油がご飯粒をコーチングすることで風味が良くなるのです。無論、混ぜすぎると油っぽいご飯になりますので、量には注意が必要です。

(4)工業用途でも活躍の植物油

 食用だけでなく工業用にも植物油が広く使われています。その代表格はなんといっても石鹸・洗剤で、植物油脂を分解して得られる脂肪酸とカ性ソーダを主原料に作られます。主に使用される植物油はパーム油、やし油など熱帯油脂と呼ばれるものですが、使用済みの油や、植物油製造工程で発生する不純物から抽出した脂肪酸などもくまなく利用されています。もっとも、熱帯油脂については工業用に輸入されるものは少なくなり、最近では、脂肪酸など二次製品の形で輸入されるものが主体となっています。

 塗料にも植物油が使われています。油性塗料がそれで、家庭のペンキ塗りに一役買っているというわけです。環境に厳しいヨーロッパでは、植物油から製造した木材の保護油が人気を集めています。化石系油と異なり、嫌な匂いや有害成分を発生しないことが理由のようです。

 植物油インクも静かに広がっています。かっては乾きにくく、高速印刷に向かないという欠点がありましたが、その問題も克服され、“環境”を主テーマとしている雑誌や新聞などに利用されており、市場の拡大が期待されています。
いまでは、日本でもすっかりポピュラーになったオリーブ油が、ほんの少し前までは化粧品(サンオイル)であったことをご存じでしょうか。オリーブ油にとどまらず植物油は化粧品の原料の一部を構成しています。無論、油そのものではなく、油を分解・加工して化粧品の素材が作られます。化粧品から少し離れますが、歯磨きの抗菌剤として少量の植物油が利用されているものもあります。

 バイオジーゼルという言葉を耳にされた方も多いことでしょう。植物油から作る燃料です。特に、大豆油やパーム油の生産国では、食用市場に限界のある中で、植物油の新規用途として注目を集めています。大気汚染が世界一と言われるロサンゼルスでは公共交通機関に一定のバイオジーゼルの利用を義務づけています。EUでは、バイオジーゼルの利用量が100万トンに達したとの情報もあります。

 このほか、プラスチックなどの可塑剤、潤滑油、医薬品などの分野で植物油が活躍しています。ひょっとして、私たち日本植物油協会が知らない分野で新しい用途が開発されているかもしれません。

自然の恵みを100%活用する

 これまで、いろいろな植物油の活躍している様をご紹介してきました。植物油製造業は、油糧種子と呼ばれる植物に封じ込められた自然の恵みを、目一杯人類のお役に立てようとするために努力を続けています。ここにご紹介したのは、その一部ですが、油糧種子が持っている可能性をもっと追求し、食品残滓がほとんど発生しない工場であることを誇りとして、更にその有効利用を目指しています。
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