アスリートの低エネルギー予防と栄養・油脂摂取

アスリートの低エネルギー予防と栄養・油脂摂取

國澤 純

 女性アスリートは様々な問題を抱えながら競技生活を送っている。1992年にアメリカスポーツ医学会(ACSM)は、摂食障害、無月経、骨粗鬆症の3つを女性アスリートに共通する健康問題とし、“女性選手の三主徴(Female Athlete Triad:FAT)”と名付けて警鐘を鳴らした。その後2007年にFATは大幅改定され、エナジー・アベイラビリティー(energy availability:EA)が低下すると機能性視床下部性無月経を引き起こし、骨粗鬆症を招くという新しい概念が提示された。EAとは1日の総エネルギー摂取量から運動によるエネルギー消費量を差し引き、除脂肪量(fat free mass:FFM)で除した値と定義されており、30kcal/kg FFM/dayを下回る低エネルギー状態(low energy availability:LEA)が続くと無月経や骨密度低下を引き起こす原因になるとされている。さらに2014年には、国際オリンピック委員会(IOC)による合意声明として相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport:RED-S)という概念が提示された。性別を問わずLEAが様々な生理機能に影響を及ぼし、パフォーマンスを阻害する要因となることが明記された。女性アスリートのみでなく、男性アスリートも同様にLEAに対する注意が必要と考えられる。

岸野 重信

 日本人アスリートに対してスポーツ現場でEAを応用するにはさまざまな検討が必要であるが、アスリートの健康問題は食事によるエネルギー摂取と密接な関連があることは確かである。演者らの日本人選手を対象とした食事調査結果では、男女とも負のエネルギーバランス状態の選手が多い。EAも低値を示しており、運動量の多い男性アスリートは女性アスリートよりもEAが低い傾向があることが明らかになっている。エネルギー代謝の抑制、内分泌の乱れ、及び骨吸収の促進などの問題が発生しているアスリートも散見される。

國澤 純

 これらのアスリートの脂質のエネルギー産生栄養素バランスをみると、適正範囲内(20-30%En)ではあるものの、そもそも摂取エネルギー不足の状態であることから、摂取不足のケースも考えられる。したがって、アスリートではエネルギー産生栄養素バランスでの評価よりも絶対値(体重1kg当たりの摂取量)で評価する方が望ましいのではないだろうか。体重あたりの脂質摂取量は男女ともに多くなく、摂取エネルギー量を増やしてEAを改善するには、植物油の摂取を増やすのもひとつの方法であろう。
 本講演では、日本人アスリートのエネルギー状態やヘルスリスクに関するデータをご紹介し、日常の食生活で無理なく食事からエネルギーとエネルギー産生栄養素の摂取ができる方法について、公認スポーツ栄養士の視点よりご紹介した。植物油や食用油の具体的活用では、料理にマーガリンやゴマ油などを適宜使用する、ご飯を炊く際にMCT(中鎖脂肪酸油)を適量加える、トンカツなどの揚げ物も日常の食事に適宜取り入れる、給油量の多いナスなどの野菜を植物油で調理する、などの方法がある。日常的な献立における油脂の適量使用は、摂取エネルギー不足を解消させてEAの改善やLEA予防に役立つ。そして、エネルギーバランスが適正な状態でトレーニングを行うことにより、競技力向上にも寄与しうるものと考える。選手、コーチ・監督、保護者など、アスリートを取り巻くすべての人に対し、食事・栄養に関する教育・普及活動の取り組みを進めている。

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