食事・運動による睡眠並びに脂肪酸酸化への影響

食事・運動による睡眠並びに脂肪酸酸化への影響

徳山薫平

 酸素摂取、二酸化炭素産生および尿中窒素排泄からエネルギー代謝を調べる間接熱量測定法では、マスク、フードあるいはメタボリックチャンバーを用いて呼気を採取する。メタボリックチャンバー法(ヒューマン・カロリメータとも呼ばれている)は部屋に拡散した呼気を分析するために、前者の2方法に比べて精度が落ちるが、食事や睡眠時も含めて長時間の測定が可能となる。そのために、従来のヒューマン・カロリメータ法を用いた研究では、24時間の総エネルギー消費や総脂肪酸化量がターゲットとされてきた。わが国では2000年に国立健康・栄養研究所に設置されたのに続き、現在は11施設で稼働している。わが国の多くのヒューマン・カロリメータは磁場型の質量分析機をガス分析に使用しており、30-100年先行して研究を開始した欧米の研究施設よりも、精度が1桁高い(装置の値段も1桁高い)。空気中の窒素やアルゴンも測定した上で酸素と二酸化炭素の%を算出しているので、長時間の測定に際してもガス濃度の測定値がドリフトせずに安定して測定できる。更に、ヒューマン・カロリメータによる代謝測定の時間分解能を高めるためのアルゴリズムも開発された(J Appl Physiol 106: 640, 2009)。日本で改良されたヒューマン・カロリメータは中国の大規模研究にも採用される可能性があり、これが国際標準となる日も近いと期待している。

 運動、食事および睡眠等を管理してエネルギー代謝を測定すれば、同一条件での2試行間のエネルギー消費の差は50-100 kcal/24h程度となる。生活習慣病の病態生理を理解するためには、運動後や食後および睡眠中のエネルギー代謝も測定することが必要だと考えて研究を進めている。

1 朝食欠食や遅い時刻の夕食は睡眠時の酸化基質に影響する
朝食欠食(昼食と夕食を多めに摂取して24時間のエネルギー摂取には差が無い条件下で比較)や遅い時刻の夕食は睡眠時の平均血糖を上昇させ、炭水化物酸化の上昇と脂肪酸化の低下を招く(Obes Res Clin Pract 5:e220, 2011; 8:e249, 2014)。
2 運動の脂肪燃焼効果は、運動する時間帯によって異なる
24時間のエネルギー摂取とエネルギー消費のバランスが釣り合った条件では、朝食前に運動すると24時間の脂肪酸化が増えるが、同じ運動を朝食後、昼食後あるいは夕食後に行っても24時間の脂肪酸化は増えない(J Appl Physiol 118:80, 2015; EBioMedicine 2:2003, 2015; PLoS ONE 12: e0180472, 2017)。
3 睡眠時のエネルギー代謝は絶食の安静時代謝の延長ではない
就寝後にエネルギー消費と炭水化物酸化が減少する。しかし、起床の2-6時間前からエネルギー消費と炭水化物酸化は上昇に転じる(Metabolism 69:14, 2017)。
4 不飽和脂肪酸の摂取は脂肪酸化を増大させる
飽和脂肪酸の摂取に比べて、不飽和脂肪酸の摂取は脂肪酸化の亢進、深睡眠の増大や深部体温リズム前進などを引き起こす(Yajima et al., 未発表)。

 懇話会では、ヒューマン・カロリメータ法の限界(24時間以上の連続測定、外因性脂肪と内因性脂肪の酸化の区別、食事の脂肪酸組成を極端に変えた場合の脂肪酸化量推定など)についても紹介した。安定同位体で標識した水や脂肪酸を用いたヒトでの研究の今後の発展に期待したい。

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