一般社団法人日本植物油協会は、
日本で植物油を製造・加工業を営む企業で構成している非営利の業界団体です。

植物油サロン

食に経験や造詣が深い著名人、食に係わるプロフェッショナル、植物油業界関係者などの方々に、自らの経験や体験をベースに、
食事、食材、健康、栄養、そして植物油にまつわるさまざまな思い出や持論を自由に語っていただきます。

第23回 役者という仕事には終わりがない。だから進化を続けていくしかない 俳優 風間杜夫さん

雑誌作りには「異なる視点と切り口」が必要

俳優 風間杜夫さん

僕は小学校に入りたての頃は、どちらかと言えば照れ屋さんというか、内向的な性格の持ち主でした。テレビの料理番組の真似をするために、公園で葉っぱを集めては野菜の素材にしたり、切手の収集をしたり、折り紙で“ふくすけ”をたくさん作っては、いわゆる“殿中遊び”を嗜んでいたり・・・。ただ、遊びの中でひときわ輝きを放っていたのは、いわゆる“チャンバラごっこ”。幼少の頃からチャンバラごっこになると、見事な斬られ役を演じることがごく自然にできていたのです。上手に斬られ、見事にのたうち回ると、誰からも喜ばれる・・・。人の喜びは自分の喜びにも通じている訳で、ここに私の役者人生の原点があると言えるでしょう。

百貨店の婦人服売場に行けば、すぐにマネキンのスカートの中にもぐってしまうような、いつも母の存在がなければ積極的になれないタイプの子供だった私に転機が訪れたのは、8歳の時に児童劇団に入団したことにあります。内向的でシャイな側面を持ちながらも、なぜか、お遊戯会ではハツラツとした演技を見せる私の姿を見たまわりの大人たちが、性格を変えていくには芝居の道しかないと、入団を推し進めてくれたのです。すぐに子役として頭角をあらわすことができ、マキノ雅弘さん、加藤泰さんなど、日本映画史に名を残す名監督の東映作品に多数出演し、少年雑誌の表紙を飾るほどの売れっ子になっていきました。小学校5年生の時などはあまり学校にも行けず、ほとんど京都の撮影所に通い詰めの生活。しかし「俳優を一生の仕事にするなら、子役の仕事をやめた方がいい」との俳優・米倉斉加年さんの言葉に従って、13歳の時に劇団を退団し、その後は子役としての仕事は減っていきました。

子供の頃の食生活は、今風に言えば“肉食派”でしたね。父の実家が浅草でして、たとえば家族で有名なすき焼きを食べに行くと、みんなでシラタキの影に隠れた脂味たっぷりのお肉の争奪戦を繰り広げていましたよ(笑)。ラードを引いた後のキツネ色に染まったお肉が大好きでした。幸いなことに女房が料理上手ですので、最近は自分ではごく稀に、インスタントラーメンに野菜炒めをのせて、塩バターラーメンを作る程度なのですが・・・。食に関して好き嫌いはありませんね。アップルパイも好きですし焼酎も好きですから、甘辛ともにイケる口。けれども、さすがに最近は肉から野菜中心の食生活に変化し、食べる量もだいぶ減ってきましたね。いわゆる淡白なものにシフトしてきたんです。お刺身とか豆腐とか納豆とか、シラスとか・・・。ただ、いわゆる脂味は今でも大好きですので、お寿司屋さんに行くと、大トロから始まって青魚をはさんでまた大トロに戻るパターンが多いですね・・・。脂分と油分は異なりますが、植物油と言えば、やはりオリーブオイルが好きです。ペペロンチーノには欠かせませんし、パスタでおすすめなのは、明太海苔スパゲティと、たっぷりのオリーブオイルの組み合わせ。これが実に秀逸でして、我が家の定番メニューのひとつとなっています。

これからも“風間杜夫”を遊び尽くしたい

俳優 風間杜夫さん

還暦を越えてもなお、役者として挑戦は続いています。身体づくりのために、ジムに通ったり自転車を始めてみましたが、どうも長続きしませんでした・・・(笑)。最近は舞台をつとめあげることが何よりの健康維持法だという結論に至っています。舞台の稽古で作られた筋肉は非常に柔軟性を有していますし、この年齢で腰も肩も全く問題ありません。あと毎日欠かしていないのはサウナ。若い頃からこの二つを欠かすことなく健康に過ごせていますので、食以外で考えると、私にとってはサウナと舞台さえあれば、健康はおのずと手に入ってきているのです。

もちろん舞台の他にも、ドラマや映画、そして落語など、役者としての芸域を広げるためにも幅広いジャンルの挑戦を続けているんですが、とくに落語は小学2年生の頃からラジオで聴くのが好きでした。東京・世田谷区の自宅で祖母の横にちょこんと座り、一心に耳を傾けていました。内容はよく覚えていないのですが、「下町のおっちゃんやおばちゃんが繰り広げるどたばた劇」に腹を抱えて笑ったものです。もともと東京っ子ということもあるんでしょうけれど、落語家の持っている風情といいますか、おおまかに言えば“生き様”が好きなんです。なんだか最近は、日本人全体が小ずるくなって『宵越しの銭は持たねぇ』的な美意識がなくなりつつあることが、とても寂しいんですよ。

やはり根本的には“生”というか、“ライブ感”がたまらなく好きなんですね。なかでも舞台は稽古から本公演まで、日々のスケジュールが明確に決まっていて、いわゆる「緊張と解放」のメリハリがある。私はこのメリハリ感が好きなんですよね。舞台がある時のメリハリは、生活にリズムを与え、なんらストレスを感じることなく毎日を過ごすことができるんです。そして生の舞台というのは、同じことをやっているようでも、じつは毎回異なります。その時、その場でしか起こらない事件を、お客さんに目撃していただく・・・。つまりフィクションであると同時にドキュメントでもあるんですよね。一昨年に、5時間を超えるひとり芝居の連続上演をやってから力が抜けてしまいフェイドアウトしそうになったけれど、やっぱり芝居への意欲が消えることはありませんでした。「今のままじゃだめだ」とか「もう一皮むけたい」との気持ちが再びムクムクと湧きあがってくるんです。決して芝居が上手と言われたいのではなく、表現の幅が広いと言われたい。つまり、まだまだこれから、風間杜夫で遊ぼうという気持ちになっていて・・・。いつまでも風間杜夫という人間に興味を持って生きていきたいんです。

出会う人々の素晴らしさは、人に誇れる

俳優 風間杜夫さん

一時はテレビドラマの影響もあって相当に人気のあった時期もありましたが、内心は自分自身に飽きていた部分もありました。この役者、つまらないなというか・・・。いわゆる壁ができた時期もありましたね。しかしながら、役者人生の節目節目に、名立たる演出家や監督の方々との出会いがありまして、・・・。つかこうへいさん、深作欣二さん、山田太一さん・・・それはもう、数え上げればキリがありません。僕は、本当にうまく、いい方とめぐり会ってきていますね。出会いの運の強さは人に誇れると思います。なかなかここまでタイミングよく、いい人といい作品には出会えないのではないかとつくづく思います。それは芸能運とでもいいましょうか・・・。趣味の麻雀が勝負強いのも、ある意味、運気を持っているんでしょうかね・・・。俳優をやめようと思ったことはありませんが、一時期はイベント会社を立ち上げようとしたり、喫茶店の伝票の裏に広告を入れる新ビジネスをスタートしようとしたり・・・。伝票は裏返しにテーブルに置くのでちょうど良い宣伝効果を得られるかと・・・。でも今振り返ると、こちらのビジネスの運気はうまく成就しなくて良かったですね(笑)。

かつて、つかこうへいさんに「人間は一色ではない」と教わりました。様々な役をやるのはもちろん、ひとつの役でも、正義感があるかと思えば嫉妬深かったり茶目っ気があったりする。この夏に演じる、喜劇性のある井上ひさしさんの芝居(※作家・井上ひさしの初期の名作「しみじみ日本・乃木大将」)にしても、人間の切実な何かが、客観的に見ると滑稽だったり笑いを誘ったりするわけですから、自分の様々な要素を注いで演じ切りたいと考えています。井上さんの作品というのは、生きること全てに肯定がなされた世界で、幕が下りる度に「自分もちょっとマシな人間になれたかな」と感動すら覚えるほどなのです。それはただの錯覚で、翌日には無頼の自分に戻ってしまうのですけれども・・・(笑)。井上さんの戯曲には、それだけのすごい力があるんですよね。

そして、今回は初めて演出家の蜷川幸雄さんと組んでやらせていただく舞台となりました。蜷川さんは怖いというか、灰皿が飛んでくるイメージの方も多いかと思いますが、そんなことはありませんよ(笑)。いままさに稽古の真っ只中なのですが、明治時代は、古き良きものを捨てなければ欧米列強と肩を並べられないというジレンマの中で、日清・日露戦争含め、日本が急速に大きく動いたドラマチックな時代。舞台装置も素晴らしいですし、何より、馬の足たちが乃木大将について語りだすという設定がユニークだと思いませんか? 私は乃木大将役だけでなく馬の足の役も兼ねていまして・・・。この名優が馬の足を演じるんですから、それだけでも興味深いでしょう?(笑)ともあれ、役者の仕事ってなかなか結果が出ないし、スポーツにおける記録のように分かりやすく見えてはこない。自分がいいと思っても人はそう思ってくれないし、人がいいと言っても今度は自分が納得いかない・・・。でも逆に考えれば、だからこそ役者という職業に、一生飽きることなく挑戦を続けていくんだなと考えています。

プロフィール 風間 杜夫

風間 杜夫(かざま もりお)

1949年4月26日生まれ、東京都出身。1977年より劇団“つかこうへい事務所”に参加。

「蒲田行進曲」舞台版&映画版で銀四郎(銀ちゃん)を演じるなど、その演技力は高い評価を得て、数多くの演劇、映像作品をはじめ、幅広いジャンルで活躍。
2010年には、水谷龍二作・演出の「ひとり芝居五部作」を5時間強かけて一挙に上演。華のある実力派俳優として、常に第一線を走り続けている。ここ十数年は落語で高座に上がり、真打ち顔負けの噺家ぶりも披露。
2012年7月12日が初日の作家・井上ひさし生誕77周年の公演『しみじみ日本・乃木大将』(演出:蜷川幸雄)では、主役の乃木大将と、乃木大将の愛馬・寿号の前足“こと”を演じる。

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