2.新しい脂質所要量
 新しい脂質所要量は表1のようにまとめられている。対象となる年齢の区切りが変更されたが、摂取量に関しては大筋では第5次改定と変わりはない。しかし、検討内容の深さは前回の比ではない。
 質的な指標についてはいくらかの改定がなされた。まず、モノ不飽和脂肪酸(注3)の割合が低くなった。モノエン酸はいろんな面で生理的有用性が知られてきて(注4)、その摂取が奨められているが、実際の食生活では第5次での他の脂肪酸の1.5倍を摂取するようにとの推奨は実践し難い嫌いがあった。そのため、今回はいくらか抑えられたが、実際には1~1.5と理解しても支障はない。n-6/n-3=4(注5)は従来と同じ値であるが、昨今の病態改善効果や動物実験の結果を盲信するn-3 系(注6)神話が、栄養学を理解していない一般市民を惑わしていることを勘案して、「健康な人では」という条件が付されている。実際に、n-3系脂肪酸の種々の病態改善効果を普遍化するには、まだ十分な証拠はないのである。

注3: 脂肪酸のうち、二重結合を1個もつものをモノ(一価)不飽和脂肪酸と呼ぶ。食品中ではオレイン酸(炭素数18)がもっとも代表的な脂肪酸である。
注4: オレイン酸はリノール酸とほぼ同等の血清コレステロール濃度低下能を有し、しかも、リノール酸とは対照的に、オレイン酸では善玉の濃度には影響せず、さらに、酸化され難いので、動脈硬化の予防には好適の脂肪酸と言われている(ただし、日本人での試験では、コレステロール濃度低下作用は明確ではない)。
注5: 二重結合を2個以上持つ脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と言うが、このグループの脂肪酸はn-3系とn-6系に大別される。体内での働きがそれぞれ対照的であり、両者とも健康維持に不可欠の脂肪酸であるので、両者をバランスよく摂取することが大切である。
注6: n-3系多価不飽和脂肪酸は多彩な生理機能を発揮するが、とくにドコサヘキサエン酸(DHA)は脳神経系の働きに必須の成分である。動物実験では、n-3系脂肪酸を摂取すると、学習能力の向上や免疫機能改善などが見られることから、一種の神話が生まれている。人間では頭が良くなるようなことはない。
PREVMEMUNEXT