アメリカの大豆搾油業の黎明

5. 大豆を作って、戦争に勝利しよう

 1930年代の大豆搾油業の躍進は、第二次世界大戦の勃発によりさらに前進することとなりました。戦争当事者国である日本(満州)からの大豆油輸入が止まるだけではなく、日本が制海権を握っていた南アジアからのパーム油とやし油の輸入も閉ざされることとなりました。これらは、アメリカが輸入する油脂の3分の2を占めていました。これに加えて、同盟国であるヨーロッパ諸国からアメリカに対して、油脂の供給が強く求められました。アメリカ政府は、農家に対して大豆生産の緊急拡大要請を行うこととなりました。1942年、アメリカ政府は「大豆油と戦争:勝利のためにもっと多くの大豆を生産しよう!(Soybean Oil and the War : Grow More Soybeans for Victory)」と題する4ページのチラシを配布しました。そこには、次のように書かれていました。

Uncle Sam needs soybean oil to win the war. We must replace a billion pounds (433,600 tonnes) of fats and oils cut off by the war in the Far East. Then, too, our Allies have asked us to send them a billion pounds or more of fats and oils this year . . . Most of this oil will go into food . . . Uncle Sam needs 9 million acres of soybeans for oil this year . . . Remember--when you grow more soybeans, you are helping America to destroy the enemies of freedom
(仮訳)
「サムおじさんは、戦争に勝つために大豆油が必要なのさ。極東での戦争によって失われた10億ポンドの油脂の代わりに大豆油が必要なんだ。それに、私たちの同盟者(イギリス)が、今年、10億ポンド以上の油脂(そのほとんどは食用だよ)をくれって無心してきたんだ。サムおじさんは、今年、そのために900万エーカーの大豆が必要なんだ。忘れないで! 君たちがもっと多くの大豆を作ることは、アメリカの自由を脅かす敵からアメリカを救うことになるんだよ。」
脚注:「サムおじさん」
United States をもじってUncle Samとしたもの。アメリカ人を総称するときに用いられる表現で、図9のように星条旗のコスチュームに身を包んだ男性として戯画化されている。


【 図9 Uncle Sam 】
図9 Uncle Sam
注:アメリカ政府が第一次世界大戦中に陸軍兵募集に用いたポスター(左)。コミック「HERO」に登場したアンクルサム(右)

 このキャンペーンに対するアメリカの農家の反応は驚嘆するべきものでした。大豆の生産量は急速に増加し、2年間で満州を抜き去り世界最大の大豆生産国となりました。大豆油の生産もこれに比例します。キャンペーン翌年の1943年には、大豆油の生産量は前年より62%増加してアマニ油を追い抜き、1944年にはさらに増加して綿実油を追い抜き、アメリカで生産される最大の植物油となりました。大戦の間、政府は大豆油を食用だけに利用するよう規制し、大豆油の大半はマーガリンとショートニングに加工され、マーガリンはバターを追い抜いて最も多く食用に利用される油脂加工品となるに至りました。


PREVMENUNEXT