アメリカ中西部を襲う干ばつと大豆生産

3.大豆の大幅な減産

 干ばつは、農産物の生育に大きい影響を及ぼします。前述のJoe Steiner氏は本年8月13日のUSDAの報告(Oil Crops Outlook)を引用し、7月中の降雨量が平年の半分にも満たないなかで1936年以来の異常な高温が継続し、土壌は乾きあがり、干ばつの度合いをより厳しいものとし、その範囲がさらに拡大したことを述べられました。ただし南部と北部とでは被害に差異があり、干ばつが比較的軽微であった北部では通常に近い生育が得られているのに対し、中南部では被害が大きいものになっているとのことでした。

 大豆の生育に対する影響については「干ばつは、開花を妨げ、着莢(ちゃくきょう:大豆のさやの形成)を遅らせており、子実の成長期間が短縮される(十分な成育時間がない)」と報告されました。またUSDAによる週ごとの大豆の生育状況調査では、8月の報告時点で「非常に良好、良好」の割合が31%で、前年の同じ時期の60%を大幅に下回っています。

 しかし、トウモロコシが子実の生育期間が過ぎ、生産が回復する見込みがないのに対し、大豆の作物上の利点は種子の成熟が8月から9月中旬まで続くことにあります。この間に有効な降雨が得られれば、成熟状況の改善が期待できます。8月31日のアメリカ大豆関係者との定期会議では、8月中旬から小規模な嵐とハリケーン「アイザック」の影響で中南部にも有効な降水量があり、状況が少し改善できるのではないかとの報告がありました。しかし、この言葉は、彼らが干ばつ被害を免れた地域の大豆生産者であることを考慮しなければなりません。また例年の農作業が行われた場合には適合することであるかもしれませんが、大豆の一毛作地帯(前作に春小麦などを栽培しない)では、春先の天候に恵まれ、播種作業が例年より半月近く早く進展し、生育も例年より早く進みました。したがって降雨による回復が期待できる地域は限られており、大豆の主産地では回復のためには遅すぎた降雨でした。 

 図3は1980年以来のアメリカ産大豆の単収と生産量の推移を示しています。2012年の数値は、USDAの8月13日公表の予測値(7月末時点)。図3でみるとおり、過去には1988年の干ばつの時期以外でも、単収と生産量が落ち込んでいる年があります。これらの年には、小規模で局地的な干ばつや熱波が生じており、最近では2003年や2008年に熱波が生じています(2007年はバイオエタノールの急伸長で競合するトウモロコシ栽培面積が急増し、大豆栽培面積が激減した年です)。

 今年の予測では、1エーカー当たりの単収は36.1ブッシェル(1ヘクタール当たり約2.4トン)と前年より13%低下し、全体の生産量は26億9,200万ブッシェル(約7,327万トン)で前年より12%減少するとしています。しかし専門家たちは、最終的な生産量はさらに低いものとなり、品質も低下すると予測しています。図3で明らかなように、アメリカの大豆の単収は変動しながらも上昇傾向を示してきましたが、今年の予想単収は熱波が生じた2003年以来の低い水準となっています。8月中旬以降の降雨が一部の地域で若干の改善をもたらすとしても、今年のアメリカ産大豆は稀に見る凶作であることは事実であり、供給量が大幅に低下することは専門家の一致した見解です。USDAの9月のOutlookがどのような報告となるのかが気になるところです。

 USDAは「大豆の高値がブラジルの大豆生産者の増産意欲を掻き立て、2012/13年産(2012年8月~2013年7月)のブラジルの大豆生産量はアメリカ産大豆生産量を上回ることになるだろう」と予測しています。南米の生育期の天候が予測できない中で、世界最大の大豆生産国が、早くもこのような弱音を吐くところに、本年の干ばつの厳しさが現れているのではないでしょうか。


【 図3 アメリカの大豆生産地帯 】
生産量(千ブッシェル) 
(単収:ブッシェル/エーカー)
図1 シカゴ市場における大豆先物価格の推移
資料:アメリカ農務省「Oil Crops Year Book」、「Oil Crops Outlook」(2012.8.13)
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