植物油とパン粉、おいしい関係
1.パン粉、このかぐわしき“衣”のもと

  日本の揚げ物の代表は天ぷら。水溶き小麦粉を素材にからませ、高温でさっと揚げる。この調理法は中国を経由して伝えられたようですが、いまや和食を代表する味となり、”Tempura”として世界でも親しまれるようになりました。

  同じ揚げ物でも、フライの衣(ころも)には“パン粉”を用います。“パン”という名称から明らかなように、これは西洋由来の調理法ですが、天ぷらよりかなり遅れて、明治時代に文明開化の波に乗ってカットレットやクロケットが日本に伝えられました。そして、名称も“カツレツ”、“コロッケ”と洋風和名に変化しました。でも、当時、これらの調理に用いられたパン粉は、外国製のビスケットや乾パンを粉末にしたものが主流で、今日の、“サクッ”という感じとはほど遠いものだったようです。

  私たちがいま使用しているパン粉は、明治40年(西暦1907年)に東京の京橋八丁堀のパン屋が製造し始めたのが嚆矢(こうし)と伝えられています。外国製のビスケットなどではなく、パン屋さんが焼いたパンをすり下ろし、ふるいにかけ、粒子の揃ったパン粉を洋食店に供給しました。これが日本式パン粉の誕生で、パン粉を製造するという業が成立した瞬間です。

【 図1 1960年代のパン粉生産風景 】

 図1 1960年代のパン粉生産風景

資料:全国パン粉工業協同組合連合会提供

  私たちが、いまなじんでいる“サクッ”、“ジュワーッ”は、よりおいしいものを目指す日本人のたゆまぬ工夫から誕生しました。そして、その後もパン粉は改良が続けられ、植物油とのおいしい関係を確固たるものにしてきました。

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