世界に広がるパーム油
7.SPO

  SPOという言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。Sustainable Palm Oilを省略したものです。「持続的生産可能なパーム油」という日本語訳になりますが、環境の保全に配慮したパームから製造したパーム油であることを意味しています。今年から、SPOのロゴが付されたパーム油がEU向けに輸出され始めました。

  マレーシアの山々は、自然の緑に覆われた豊かな山のように見えます。しかし、飛行機で上空から見ると、パームの木が螺旋状に規則正しく植栽されていることに気づきます。環境問題に関心の深いEUは、パーム農園の無秩序な開発が、マレーシアの自然、特に貴重な熱帯雨林に著しい悪影響を及ぼしていると告発しました。

  これに対し、マレーシアでは「環境を破壊し尽くした先進国が、自らの責務を棚に上げ、経済開発に懸命の発展途上国に、そのような圧力をかけることは不当ではないか。」という反論がありました。本年5月に東京で開催された「パーム油セミナー」(マレーシアパーム油協議会主催)で、同協会最高責任者であるYusof Basironは、「世界で毎年開発される森林が1,000万ヘクタール、これに対し、マレーシアとインドネシアとを合わせたパーム農園の面積は1,000万ヘクタール。先進国は、本当の問題がどこにあるかをもっと知るべきである。」との見解を示されました。

  そのような疑問はあるものの、マレーシアでは、自然環境とパーム農園をどのように共存させるべきであるかとの議論を開始しました(Yusof Basiron氏もその中で中心的な働きをされました。)。5年余に及ぶ議論を経て、パーム農園と自然とを共存させる施策を実行することになりました。熱帯雨林のこれ以上の開発を避けること、野生動物の行動がパーム農園によって制限されないようなバイパスを設置するなどの措置を講じ、この措置を実行した農園・企業で製造されるパーム油にはSPOのロゴを付して販売することとしました。その第一号が、今年、EU向けに輸出されることとなったのです。SPOは、当然ながらコストの高いものとなり、したがって価格も他のパーム油より高くなりますが、EUはそれを受け入れることを承諾したのです。パーム油としては、他のパーム油と品質も用途も変わりがないので、同じ品質の商品に2つの価格が存在することとなります。

  SPOは、環境と経済という問題に一つの解決策を投げかけた措置ですが、これが世界でどのように支持されるのでしょうか。また、マレーシアでは、パーム農園をこれ以上に拡大することが非常に困難になってきました。しかし、追い越したインドネシアとの競争、大豆油や菜種油との競争が厳しさを増す中で、SPOが競争力を高める一手段として採択されたという面もあります。これらを含めSPOが世界でどう評価されるのかについて、関心が集まっています。

  なお、Sustainabilityの議論は、現在、ブラジルの大豆へと議論が移っています。大豆生産の急速な拡大が、アマゾンの自然や熱帯雨林の破壊につながっているとの批判を受けて、この議論が開始されました。

【 図8 整備されたパーム農場 】

図8 整備されたパーム農場

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