いつまでも元気は、適正な食生活と運動から
2.食生活の変化からなる長寿と食事の関係

●高齢者に有効な栄養改善の方法

  高齢者の栄養改善法は、介入研究(試してみる研究)を経て実行可能性、有効性及びその安全性を評価したプログラムで構成しなければなりません。健康づくりの手立ては、本来すべて介入研究による評価の手続きが必要です。そこで、筆者(熊谷教授)らは、これまでご紹介した研究成果を踏まえ、要介護を予防する食生活の手立てを開発するための介入研究を行いました。試案として開発した「高齢者の老化を遅らさせるための食生活指針」を表2に示しました。食を促し、多様性を育む要素を広く網羅しているのがこの指針の特徴です。「肉と魚の摂取割合を1対1程度とする」や「油脂類の摂取が不足しないように注意する」などの項目は、これまでの生活習慣病対策では取り上げられたことのない項目です。この指針を活用し、自立した生活をおくる有料老人ホームの高齢者を対象に2年間の介入研究を行いました。介入研究で行った食生活改善活動による食品摂取頻度と栄養指標の変化を図6-1,2に示しました。

【 表2 高齢者の老化を遅らせるための食生活指針 】

1.3食のバランスをよくとり,欠食は絶対さける
2.動物性たんぱく質を十分に摂取する
3.魚と肉の摂取は1:1程度の割合にする
4.肉は,さまざまな種類を摂取し,偏らないようにする
5.油脂類の摂取が不足しないように注意する
6.牛乳は,毎日200ml以上飲むようにする
7.野菜は,緑黄色野菜,根野菜など豊富な種類を毎日食べる
  火を通して摂取量を確保する
8.食欲がないときはとくにおかずを先に食べごはんを残す
9.食材の調理法や保存法を習熟する
10.酢,香辛料,香り野菜を十分に取り入れる
11.調味料を上手に使いおいしく食べる
12.和風,中華,洋風とさまざまな料理を取り入れる
13.会食の機会を豊富につくる
14.かむ力を維持するため義歯は定期的に点検を受ける
15.健康情報を積極的に取り入れる

熊谷 修,他:日本公衆衛生雑誌,46:1003-1012(1999).

  図6-1は、この研究の結果を示しています。介入試験を実施したグループ(介入群)では、上記の「食生活指針」の実践により、肉類と油脂類の摂取頻度が有意に増加しました。その結果として、先に述べた血清アルブミンが有意に増加しています(図6-2)。一方、対照群(介入していないグループ)では、老化に伴って血清アルブミンが有意に低下しています。このように介入群では栄養状態が改善され、老化の遅れが確認されました。この研究成果により,介入プログラムとして展開された「高齢者の老化を遅らせるための食生活指針」(試案)が、高齢者の栄養改善に有効なことが実証されました。

【 図6-1 介入群の肉類の摂取頻度の変化 -自立高齢者の老化遅延のための介入研究より- 】



【 図6-2 介入群の油脂類の摂取頻度の変化 -自立高齢者の老化遅延のための介入研究より- 】



【 図6-3 介入群と対照群の血清アルブミン値の変化 】



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