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 この数年、大豆の大量輸入など世界の油糧種子市場の攪乱要因となっている中国の植物油業界の動向は、油脂に関連する産業界が注視するところですが、その実態はなかなか分かりづらいものとなっています。

 実は、中国の関係者すら実態が不明であったというのが実情ではないでしょうか。急速な植物油需要の拡大、短期間の集中的な植物油製造プラントへの投資という動きに、ウオッチャーの眼がついていけなかったという側面があるように感じます。
この中国の植物油製造業の実態の一部が漸く見えてきました。中国の植物油製造業界の中央団体である中国植物油行業協会は、去る2月、大豆製油業の実態調査の結果を公開しました。無論、これは植物油製造業の一端を示すものに過ぎませんが、ここ数年の国際油糧種子市場での主要なプレーヤー達の実態と問題点が見えてきます。



 中国植物油行業協会が実施した調査は、中央政府の委託を受けて行われたもので、2月1日、同協会はその概要をホームページで公開しました。その結果は、次のとおりです。

調査実施時期 2004年12月31日
調査対象 1日当たり大豆処理能力が200トン以上の施設(工場)
調査結果 1日当たり200トン以上の大豆処理施設
うち、1000トン以上の大豆処理施設
1日当たり平均処理能力
年間処理能力(年間300日稼働と仮定)
総計(200トン以上工場)
うち、1000トン以上工場
169
90
2,192トン

7,010万トン
5,920万トン

 一説には、季節操業の小規模工場を含めれば、全国に3,000以上存在していると言われる植物油工場から見れば、この調査は氷山の一角に過ぎないものです。また、中国は世界最大の菜種、綿実及び落花生の生産を誇る国で、これらも植物油製造に利用されています。中国植物油行業協会は、これらを含めた全体の搾油能力は年間8,000万トンを超えるものと推計しています。

 ちなみに、農林水産省「油糧生産実績 製油企業実態調査」によれば、2003年の日本の製油産業は、季節操業を含めて49事業所、年間処理能力は929万トンとされています。巨大な中国製油産業の実態に改めて驚かされます。



 これらの工場が、沿海地域に集中しているのも大きい特徴です。このことは、これら工場が中国産の大豆を原料とするのではなく、輸入大豆を原料とするものであることを如実に示しています。

 【1】にご紹介した1日当たり1,000トン以上の処理能力を持つ工場のうち、63工場が沿海7省に立地し、大豆処理能力7,010万トンのうち73%を占めるとしています。単純に計算すると、1日当たり大豆処理能力は2,700トンとなります。これは、日本の最大規模の工場能力とほぼ同水準となります。

 植物油製造業は装置産業ですから、原料が確保できれば規模の大きい方が優位性を持つことになります。この数値だけ見れば、日本の植物油製造業は太刀打ちできないということになります。



 しかし、中国の植物油製造業は深刻な問題に直面しています。それは、市場の規模と搾油能力が均衡していないため、工場の操業率が低く、装置産業として規模の優位性が発揮できないという問題です。

 中国における2004年の実際の大豆圧搾数量は、中国国産大豆が900万トン(全生産量1,800万トン)と仮定し、輸入大豆2,023万トンを加えれば、約2,900万トンと推計されます。この数量を年間処理能力で除した稼働率は41%に過ぎません。日本の平成15年の全工場の稼働率73%(前掲農林水産省調査)と比較すると、極めて低いことが明らかです。中国植物油行業協会も、このことを業界における最大の問題と位置づけています。しかし、7,000万トンの能力が存分に稼働し、国際市場で大豆を買い付けることになれば世界中がパニック状態に陥ることになります。世界の大豆生産量はおよそ2億トン強、貿易量は6,000万トン強という市場に、5,000万トンの追加需要が発生すれば、予想さえできない価格の高騰が生じることになるでしょう。それは、世界中の植物油製造業に計り知れない打撃を与えることになるでしょう。



オイルワールド誌の速報では、中国の油脂需給(動物性脂肪を含む)は次のようになっています。


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 この需給表から見れば、国内需要2,400万トン(2004年、以下同じ)に対し、国内供給量は1,700万トンで、700万トン余りの油脂を輸入していますので、大豆油工場の稼働率を上げ、国内供給量を高めることが可能ということになります。

 しかし、大豆を圧搾すれば必ず大量の大豆ミールが発生します。仮に、7,000万トンの能力をフルに発揮すれば、5,500万トンの大豆ミールが発生します。これに対し、中国国内の大豆ミール需要は2,200万トンですから、3,300万トンの余剰を生じます。近隣諸国へ輸出するには膨大な数量です。昨年、中国は日本へ50万トンの大豆ミールを低価格で輸出しました。私たちにとっては大きい問題でしたが、中国の植物油製造業にとっては焼け石に水のようなものです。

 2,200万トンの大豆ミール需要に見合う大豆圧搾量は、2,700万トンと計算されますので、現在の圧搾能力は適正規模の2.6倍になります。

 油とミールの需要のミスマッチが、過大な過剰設備をもたらしているのです。中国植物油行業協会は、「現在以上の大豆圧搾は不可能。」と断言します。そして、「過剰な競争で不要な部分が淘汰されるだろう。」と続けます。
中国の中央政府は、2002年、加熱した製油施設への投資を抑制する方針を示しました。しかし、3,000万米ドル未満の投資については認可権限を省政府に委譲しました。このため、沿海地域の各省政府は海外資本の投資誘致を競い、結果として今日の過剰投資を招いたものと考えられます。


 過剰施設の淘汰は自然の動きのように見えます。しかし、淘汰は力の弱いところから進みます。もし、内陸部に位置する菜種搾油工場が淘汰され、菜種の生産が減少することになれば、世界の菜種需給に大きい影響を及ぼします。それは、日本の植物油製造業にも大きい打撃となるものです。

 油とミールの需給不均衡、過剰な設備投資、そして低操業率という3大困難をどのように克服しようとするのか、これからもその動向から目が離せないところです。

※中国植物油行業協会のホームページのアドレスは、次のとおりです。【 http://www.chinaoil.org.cn 】

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