タイトル

~ 内外ともに激動の1年 ~

 京都清水寺恒例の1年を表す漢字は、2004年は“災”でした。改めて、災害の多い年であったことを思い出します。しかし、1年を一文字で表すことは難しいことです。
 2004年の植物油製造業を表す漢字を見出すことは困難です。しかし、いくつかのトピックスの組み合わせによって示すことは可能かもしれません。

日本植物油協会では、毎年、10大ニュースを発表しています。
2004年の10大ニュースは、次のとおりとなりました。

 順 位  ニュースの内容

1位

日清オイリオグループ(株)、(株)J-オイルミルズ新生発足
2位 大豆価格高騰も、年後半には国際需給緩和で急低下、菜種も追随
3位 中国等から低価格ミールの輸入急増、油とミールの需給アンバランスを惹起
4位 中国の巨大な物資需要、油糧種子・フレートを含む資材インフレを呼ぶ
5位 シカゴ市場でオイルバリュー、ミールバリューが激しく変動、国内価格形成に影響
6位 大豆圧搾量大幅減少(対前年15%減)、菜種圧搾は史上最高の230万トンに
7位 植物油の輸入急増
8位 鳥インフルエンザ猛威、炎熱気候など飼料需要の減少をもたらす
9位 中国がごま輸入国に転換で、ごまの国際価格急上昇
10位 WTOモダリテイー確立へ向けた合意成立も、実質論議は先送り
次点 メキシコとのFTA締結、ごま・サフラワー・ひまわり油関税漸減で決着

 10大ニュースは、それぞれの年における業界や市場の状況を簡潔に示す指標ですが、業界の事情に詳しくない方にはちょっと理解ができない面があります。例えば、油糧種子の国際需給が逼迫したことにともなって、国際価格が高騰し、その製品である植物油も上昇することまでは容易に想像できますが、それが業界の構造や市場にどのような影響を及ぼすかということを知ることは困難です。そこで、これらのニュースを手がかりとして、2004年の植物油業界をご紹介いたしましょう。

[1]「日清オイリオグループ(株)、(株)J-オイルミルズ新生発足」

2004年7月1日に、次のように企業の合併が行われました。

 新生発足企業  合併前の企業

日清オイリオグループ(株)

日清オイリオ(株)、ニッコー製油(株)、リノール油脂(株)
(株)J-オイルミルズ 味の素製油(株)、(株)ホーネンコーポレーション、吉原製油(株)


 “新生”発足としているのは、両会社はすでに2002年に合併への第1段階として、同名の持ち株会社を発足させていたことによるものです。
 日本植物油協会には20の製油企業が参加しています。これらを企業の性質によって次の4類型に大別することができます。

【1】大豆油、菜種油の製造を基本として大型工場を有するもの
【2】それ以外の油種(ごま油、こめ油、コーン油、綿実油等)の製造を主とするもの
【3】植物油の加工を主とするもの
【4】工業用植物油製品を製造するもの

 2004年の合併は、【1】に属する企業により進められました。この合併が注目を集めるのは、植物油製造業界にとって急激な大型合併であったことによるもので、大豆油・菜種油を主に製造する企業数は11社から一挙に7社に減少しました。過去40年近く大きい変化がなかった業界構造が、これを機会に大きく変化しようとしています。その背景には、海外の巨大製油資本との競争が本格化する時期が近づいてきたこと、人口の減少などにより縮小する可能性のある日本の食品市場において、より効率的で柔軟な構造の企業となることが求められるという事情があります。

 合併は行われたばかりですが、企業内部における合理化だけではなく、今後、これまで以上に透明性が高く競争的な市場が実現されることが期待されています。このニュースが第1位になったのは、そんな期待の現れかもしれません。

[2]大豆価格高騰、シカゴ市場でオイルバリューなど激しく変動

 2位と5位のニュースは、2004年の国際的な市場の動きを端的に示しています。世界に流通する油糧種子はおよそ7,300万トン、このうち大豆がおよそ6,000万トンを占め、油糧種子の国際需給と価格形成は大豆が牽引しています。その大豆を世界に供給できる国は限られており、アメリカ、ブラジル及びアルゼンチンの3カ国が92~93%を占めています。したがって、これら3カ国、特にアメリカが不作に見舞われると、大豆の国際需給は逼迫することになります。

 2003年、アメリカは異常な干ばつに見舞われ、大豆の生産量が前年より一挙に1,000万トン減少するという事態となり、大豆の国際需給に暗雲が立ちこめました。

 
 国際需給の舞台は、アメリカのシカゴ商品取引所です。2003年産アメリカ大豆の不作情報が広がるとともに、同取引所で形成される大豆価格は上昇を続けました。2002年には1ブッシェル(およそ27kg)当たり5ドルであった大豆の価格は、2003年には5ドル台半ばに、後半には7~8ドルに上昇し、2004年3・4・5月には10ドルという相場に達しました。その後、2004年産アメリカ大豆の豊作情報が広がるにつれ、相場は落ち着きを取り戻し、2004年末には5ドル台半ばに低下しました。

 オイルバリューとミールバリューは耳慣れない言葉だと思います。大豆から大豆油と大豆粕(ミール)が生産されますが、シカゴ商品取引所は、大豆だけではなくこれらの取引も行っています。ここで形成された価格で大豆油とミールが販売されると仮定して、例えば1トンの大豆から生産される双方の販売額の割合を示したものが、オイルバリューとミールバリューになります。過去の平均的な状態では、オイルバリューが35%前後、ミールバリューが65%前後となっていますが、価格の変動に伴ってこの二つの指標が大きく揺れ動きました。シカゴの価格は、世界の大豆油とミールの価格に連動しています。その基礎が大きく変動することは、世界各国の価格を変動させます。日本においてもその例外ではなく、この変動の中で適正価格の実現に翻弄されたと言っても過言ではありません。

[3]“中国”というキーワード

 10大ニュースの3つに“中国”という言葉が登場しています(3・4・9位)。

 1990年代後半から、中国の膨大な需要は、油糧種子とその生産物(油及びミール)の国際価格形成を決定する重要な要因になりました。[2]で大豆の国際需給変動の主な理由としてアメリカの生産量激減を紹介しましたが、中国の巨大な需要も重要な要素として加わりました。

 中国は90年代半ばまで大豆の輸出国でした。しかし、中国の経済発展に伴って植物油や肉類の消費が拡大し、これに伴って油糧種子とミールの需要が増加を続けています。2000年に、中国は一挙に1,000万トンの大豆を輸入して世界第1位の輸入国になり、2003年には2,000万トン、2004年にも2,000万トンを上回る大豆を輸入しました。国際市場で流通する大豆のほぼ3分の1が中国で消費されることになります。この巨大な需要は今後も増加することが見込まれます。国際需給を決定する第一要因である生産は天候に大きく左右されますが、需要は構造的な要素であるため、今後の需給に対する恒常的な圧迫要因として位置づけなければなりません。

 大豆に比較すればごまの国際市場は70万トン弱に過ぎません。このうち、日本が15万トン程度を輸入しています。中国は世界でも1、2位を争うごまの生産国で、2002年までは重要な供給国として8万トン前後のごまを国際市場へ供給してきましたが、2003年には国内生産の不足から6万5千トンを輸入し、2004年にはおよそ15万トンを輸入しました。小さな市場に突然に大きい需要が生じることとなったわけですから、国際需給は一挙に逼迫し、価格の急騰をもたらしました。中国の輸入が、一時的な国内生産の不足によるものであるのかどうか、今後の動向が気になるところです。


 資材インフレと言う言葉もメディアで取り上げられました。中国は、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博を控え、建築ラッシュの様相があります。これに伴う巨大な資材需要が鉄鋼など基礎資材とそれを運ぶための船舶輸送費の上昇をもたらしました。油糧種子の輸送船舶はこれと競合するため、海上輸送費の上昇をもたらし、植物油の原料コストを大幅に引き上げることとなりました。

 ところで、中国は繊維製品などを低価格で供給してきたことから、デフレ輸出という言葉が生まれたことがありますが、この現象が植物油産業においても現れました。植物油に対する膨大な需要が油糧種子の国際価格を押し上げた反面、圧搾に伴って発生した大量の大豆ミールが低価格で日本向けに輸出されました。このことが、日本の植物油製造業の搾油計画に大きい狂いをもたらしましたが、それは、次にご紹介いたしましょう。

[4]大豆圧搾量激減、植物油の輸入急増

 私どもが年間の搾油を計画する際に、いくつかの与件を想定します。原料の価格はその第一要件ですが、植物油とミールの需要予測も重要な要件です。

 私どもの製品に対する需要は、“国内の消費見込み量-輸入数量”で示されます。第7位のニュースが示す植物油輸入の増加は、私どもが供給する植物油に対する制限要素となります。植物油価格が上昇する中で、顧客の皆様方はできるだけ価格の安い油を求められ、その結果として輸入が増えたと推察しています。この分、私どもは植物油の供給を減らさねばならなくなりました。

 特に、大豆油の供給は大幅に減少しました。2004年の大豆圧搾量はおよそ340万トンで、前年より60万トン(15%)も減少しました(第6位のニュース)。その要因の一つは、大豆の価格や輸送費の高騰ですが、大豆ミール需要の低下も大きい要因となりました。大豆1トンを圧搾すると、およそ760kgの大豆ミールと、185kgの大豆油が製造されます。したがって、大豆の圧搾は、大量に発生するミールの需要に左右されることになります。ミールのほとんどは家畜飼料に利用されますが、その飼料需要は前年よりかなり落ち込みました。鳥インフルエンザの猛威による飼養頭羽数の減少や猛暑のなかで家畜の食欲が低下したことによるものです。植物油業界の10大ニュースに、家畜の話題が出ていること(第8位のニュース)が、これでご理解いただけると思います。このような飼料需要の減少と、中国やインドからの低価格ミールの輸入増加によって、やむなく大豆圧搾量を削減しなければなりませんでした。

[5]WTO農業交渉大枠合意も、実質議論は先送り

 第10位と次点のニュースは、国際問題でした。油糧種子、植物油、ミールは典型的な国際商品です。特定の国に原料生産が集中しているなかで、円滑な国際流通は、それぞれの国における植物油製造業にとって不可欠な要件です。

 WTO(世界貿易機関)は、これに加盟する全ての国家間の貿易が円滑に進むよう、国境障壁を取り除くことを目的として、2001年から広範な交渉を進めています。しかし、事情が異なる国家間の交渉は容易ではなく、交渉を進めるための基本ルール(モダリティー)の確立に難航しています。農産物と食品に関するモダリティーは、2004年3月までにまとめることとされていましたが終結に至らず、2004年8月1日にモダリティーをまとめるための基本合意が漸く成立しました。しかし、具体的な内容についてはこれから議論することとされており、本年末までにモダリティー確立のための作業が進められることとなっています。企業の合併など構造改革の緒に就いた植物油業界にとって、WTO交渉の行方は重要な関心事です(会長からのご挨拶「2005年の幕開けにあたって」をご参照下さい)。


 WTOが、広範な加盟国を巻き込んだ国際ルールづくりであるのに対し、FTA(自由貿易協定)は、2国間あるいは複数国間の貿易ルールの取り決めです。EUは、いわば巨大なFTAですが、アメリカ、カナダ、メキシコが参加するNAFTA、南米南部の諸国が形成するMERCOSURなど広域のFTAが取り決められています。

 日本政府もシンガポールとのFTAに続いてメキシコとのFTAを締結しました。FTAの基本は、協定国間の国境措置を撤廃することにありますが、それぞれの国において重要な品目については国境措置(国家貿易、輸入割当、関税など)が不可欠な場合があります。植物油は基礎食料であること、企業の競争力が海外の巨大製油資本に比べて劣ること等を考慮すれば一定の関税が必要であるとの政府の判断がありますが、その中で特にメキシコの要求が強かった3種の植物油(ごま・サフラワー・ひまわり油)について、一定期間内に関税を撤廃することとなりました。


 10大ニュースをもとに、2004年の植物油製造業と市場の様子をご紹介いたしました。“激動”の2004年に続く2005年はどのような年になるのでしょうか。私どもも身を引き締めて、これから生じるであろう課題に真正面から取り組んでいきたいと考えています。

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