2.食料自給率は何故低下した?

 ところで、日本の食料自給率はこの30年間で60%から40%へと大幅に低下しました。日本の自給率低下を批判する人達は、日本と似かよった先進工業国で島国の英国が、同じ30年間に食料自給率を46%から74%に引き上げていることを、しばしば引き合いに出されます。

 しかし、表面の数字だけを見た単純な批判は避けねばなりません。英国は国土の80%がなだらかな平地で、人口は日本の約半分、食生活の内容も大きく異なっています。批判をするには、このような事実を念入りに検証することが必要です。ただ、それにしても、OECD加盟30カ国のうち、日本の食料自給率は28番目で、日本より低いのはアイスランドとオランダだけということに愕然とし、わが国の農政を批判する人が多いのではないかと思います。

 自給率の下がった背景として、農林水産省は日本の食生活に大きな変化があったことを挙げています。つまり、自給率がほぼ100%の米の消費が急速に落ち込み、代わって肉類、油脂類の消費が増えたために、全体の自給率が下がったというわけです。肉類や乳製品類そのものの消費は国産の比率が高いのですが、畜産動物の飼料は90%が輸入品でまかなわれているため、熱量ベースでみた最終的な自給率は低くなります。

 しかし、植物油を供給している立場から、調味料である油脂類の増加が米の消費減少をもたらしたという認識にはちょっと疑問を感じています。主食、副食、調味料などをごちゃまぜにした分析は少し乱暴な気がします。

 農林水産省では、食料・農業・農村基本法に基づいて、2010年までに食料自給率を45%に上げることを目標としています。その目標達成のためには、まず基本となる食生活を見直すことが重要であるとされています。このため、日本型食生活の定着を図り、食生活の見直しに向けた国民的な運動を、厚生労働省などと連携して推進しています。食生活の改善により生活習慣病の予防に結びつけば、健康保険財政の建て直しにも役立ち一石二鳥の効果が生じます。しかし、食生活は個人の最も基本的な活動ですから、政府が笛を吹くだけでは踊る人がいないかもしれません。政府や自治体だけでなく、栄養学に関わる人達や食品を供給する私たちも納得できる大きな運動にしなければ意味のないことになりかねません。

 ところで、食生活といえば油脂類を健康の敵と考えがちな方が多いのが私たちの悩みです。この運動でも、脂質の摂取がやや過剰気味なので減らそうということが取り上げられています。確かに、ファーストフードなどでの食事に偏りがちな傾向が見られる若者の食生活が脂肪分の摂取過剰に陥りやすいことは事実ですが、一方、高齢の方が選びがちなみそ汁に煮物中心という油っ気のない昔風の和食にも問題があります。伝統的な和食に世界各国の多様な料理や食材を取り入れた日本型食生活が、たんぱく質と油脂分の過不足ない摂取を実現し、日本人の高い平均寿命を支えていることに十分な配慮が必要だと考えます。
 
 また、供給熱量ベースで自給率を見ると、植物油のように供給量と実際の摂取量に大きな開きがあるものについては、消費量が過大にみられがちになることにも気を付けていただきたいものです。

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