日本食は「健康で長生きのレシピ」
-“シルバーこそしっかり油料理!”の新常識-

医学博士 柴田 博先生に聞く

 「敬老の日」を間近に控えた今回は、シルバーの方々がより元気にご活躍いただくことを願って、医学博士柴田博先生に食生活や油の摂り方と長寿の関係を解説していただきました。
 「間違いだらけの老人学」など数多くのユニークな著書を発表されている先生のお話は、示唆がいっぱいです。シルバーの方はもとよりこれからシルバーになる方も、今後の食生活の参考にしていただければ幸いです。


■柴田 博先生プロフィール
 医学博士。東京都老人医療センター、東京都老人総合研究所副所長を経て、現在桜美林大学教授(老年学)。その他、日本老年学会理事、世界高齢者団体連盟(IFA)理事、生涯発達研究所所長など団体役員多数。
 一般向け著書に「元気に長生き元気に死のう」「間違いだらけの老人学」「中高年こそ肉を摂れ!」「肉食のすすめ」など多数。
通説をくつがえす長寿の生き証人の食卓
 私がかつて副所長を勤めていた東京老人総合研究所ができた1972(昭和47)年、日本の100歳以上の人は405人でした。それから約30年後の現在、100歳を超える人は約25倍の1万1千人以上となりました。平均寿命も飛躍的に伸び、70代、80代の方がスポーツを楽しんだり、パソコンに向かうということも珍しいことではありません。ほんの100年ほど前、平均寿命は40歳代だったなどということは夢のようです。
長寿化の背景には、医学の進歩や社会基盤の整備などがありますが、最も身近でかつ重要なのが食事と栄養の問題です。日本人の食生活がどのように変化してきたのか、それがどう長寿化とかかわっているのか、以下、述べたいと思います。
●長生きの秘訣は"動物性食品"だった!
■図表1 100歳老人の動物性たん白質の摂取率
資料:日本人平均は厚生省「昭和47年国民栄養調査」

 “長寿のための食事”というと、多くの人が「野菜中心で油ものをひかえたあっさり食」をイメージするのではないかと思います。自分自身も医者になってしばらくは、漠然とながら「長寿の人には菜食主義者が多いのでは」と考えていました。その実際を知るべく、東京都老人総合研究所が開所したときに全国の100歳以上の100人を対象に、食生活についての実態調査を行いました。調査結果は予想とは大きく異なるもので、調査対象者は菜食中心どころか、肉や魚、卵など、動物性の食品をたくさん食べていることがわかったのです。
 調査対象者の1日の摂取エネルギー量は1,000kcal程度で、当時の平均的日本人の約半分でしたが、その中に占めるたん白質の割合は、男性で16%、女性で16.9%と、平均値の14.6%を上回っていました。しかも総たん白質のうち、動物性たん白質は男性で59.6%、女性で57.6%と、全国平均の48.7%を大きく上回っています(図表1)。つまり“長寿のための食事”は「野菜中心のあっさり食」ではなく、適正なカロリーのなかで動物性食品をたくさん摂取している人だったのです。
●油っこいものを好む人は長生きする!
 動物性食品を多く摂るということは、たん白質はもとより脂肪もたくさん摂るということになります。脂肪を摂ることが長寿に貢献するということは、私が行った別の調査でも明らかになりました。100歳以上の人の調査から3年後の1976年、その頃日本の長寿地域として有名だった東京都小金井市で、70歳の人の食事追跡調査を開始しました。食事がそれ以降の寿命にどのような影響を与えるかを調べるため、同じ対象者の食生活を追跡して調べるのです(現在も調査は継続中)。
 その結果の一つに、対象者の脂肪摂取割合は年齢を増すごとに上がっているということがありました。具体的には、調査開始10年後(調査開始時に70歳の人が80歳を超えた時点)で1日の総摂取エネルギーに対する脂肪の比率を調べたところ、男性は10年前の23.7%から26%に、女性は22.5%から26%に、それぞれ増加していたのです。すなわち、小金井市で80歳以上まで生存していた人は70歳のときよりも、全体量はともかくとして食事に占める「脂っこい食べもの」のウェイトが高まっているということです。
■図表2 油脂類の摂取別生存率(女性)
資料:Shibata H. et al. Nutrition and Health 8:165.1992
 では、長寿のための食事に脂肪が重要なのはどういう理由なのでしょうか。ひとことで言えば、脂肪の中には健康に欠かせない各種ビタミンや、ホルモンのもとになる物質が豊富に含まれているからです。一番顕著な例は、閉経後の女性と脂肪の関係です。閉経後の女性の身体では、女性ホルモンが脂肪から作られて健康維持のための働きをします。小金井市の調査でも油脂の摂取頻度の高い女性の方がそうでない女性より生存率が高いという結果が出ています(図表2)。
 こうした長寿の方々の事例をみれば、「長生きのためにはあっさり食」と言うのが単にイメージにすぎず、真実ではないということが明らかであろうと思います。
MENUNEXT