油脂と腸内フローラが織りなす腸内環境と健康

油脂と腸内フローラが織りなす腸内環境と健康

國澤 純

 近年、腸を介した健康維持・増進が注目されています。腸は食べ物の消化や吸収をつかさどる器官としてだけではなく、生体内の半分以上の免疫細胞を保持する免疫臓器でもあります。腸管において吸収された食用油は、エネルギー源や細胞膜成分などとして使用されるだけではなく、免疫機能を含む様々な生体機能に影響を与える脂質代謝物へと変換されます。さらに腸管管腔には、我々の体を構成する細胞の数以上の多くの腸内細菌が存在し、健康維持・増進に関わっていることが知られていますが、最近の研究から、食事として摂取した油が、腸管で吸収される前に腸内細菌による代謝を受け、その代謝物が生体機能に影響を与えることも分かってきました。すなわち摂取する食用油や保持する腸内細菌により、異なる脂質環境が腸管に構築され、それが腸管の免疫に影響を与えることで、腸管局所やその他の組織の免疫機能、さらには免疫とは関係のないと思われていた生活習慣病などとも関連することが明らかになりつつあります。

 私たちは、ω3やω6などの必須脂肪酸やその他の脂質を介した免疫制御の解明とその知見を応用した機能性食品や創薬などの展開、さらには医薬基盤・健康・栄養研究所が立ち上げたコホート研究を中心に得られた食事や腸内細菌、代謝物、健康状態などに関するビッグデータを統合した解析プラットフォームの構築とそこから得られた知見から新たなメカニズムを推定し実証を行う次世代型リバーストランスレーショナル研究を進めています。これらの研究から、近い将来、油を中心とする食事と腸内細菌の関係により私たちの健康を増進できる可能性を提唱できるところまで来ており、今後社会実装を含めさらなる展開を進めていきたいと考えています。

PREVMENU